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2/15/2024, 11:31:20 PM

十年前、小学校の授業の中で十年後の自分に手紙を書く時間があった。小学校で大切に保管するとかなんとか言っていた気がするが、どうなったのかよくわからない。

私が書いた手紙の内容は「ちゃんと大学生になったか」「勉強がんばれ」「家族を大切にしろ」 とかだったと思う。あの頃は皆が同じように大学にいって、会社に就職するものだと思っていたから。

十年経って、答え合わせをしてみれば私は専門学校に通っていた。貴女が想像していたほど立派な生活はしていない。家族は大切にしているつもりだが、まだまだお世話になってばかりだ。

手紙はどこかへ行ってしまったけれど、貴女自身はまだ心の何処か、胸の奥にでも居ると信じて十年後の私からお返事を出したいと思う。

「貴女の理想からは程遠いと思うけど、今の私はそこそこ楽しく生きてます。だから、あと十年はひとまず生きてみてほしいな。」

あれからいろいろあって潰れそうになりながら必死に藻掻くことになる貴女へ。

願わくば、私も十年後の自分からそんな手紙を受け取りたい。

2/15/2024, 8:07:50 AM

※喫煙表現あり。喫煙を推奨するものではありません。


昼休憩。職場近くのコンビニで弁当を買って戻って来たら、彼が喫煙室に入っていくのが見えた。前は付き合いで吸ってるだけだと言っていたのに。何となく気に入らなくて彼を追って喫煙室に入った。
「誰かと約束してるの?」
「私がいつ何を口にしようが私の勝手でしょう。」
そんなことを言いながらも僕が入った途端、まだ火がついていたタバコを吸い殻入れに押し付ける彼は優しい。
「たまにね、無性に吸いたくなるんですよ。健康に悪いのは分かってるんですけどね。」
「ふうん。」
僕は吸ったことがないから分からないけど、そういうものなのだろうか。ふと思い立って先程コンビニで弁当と一緒に買った赤いパッケージを取り出した。
「あ、バレンタイン。うちの部署でも女の子達がわいわいしていましたよ。」
「買うつもりは無かったんだけど、ちょっと眺めてる時に店員さんと目が合っちゃってさ。でも、買って良かったよ。」
ビニール袋を破り、タバコより細くて長いそれを一本差し出した。
「はい、ハッピーバレンタイン」
「……ありがとうございます。」
怪訝そうな顔をしながらもサクサクと食べ進めていく彼の表情が少し和らいだ気がした。

人の輪を外から見ている時ほど寂しい時はない。自分は混ざれないと分かっている時は尚更。
もし、君が此処に来た理由がそれなら、取り敢えずは僕の隣が君の居場所ってことにしないか?なんてドロドロした感情を甘いチョコレートと一緒に飲み込んだ。

2/13/2024, 8:26:36 AM

「貴方が好きな私は本当の私ではないですよ。」
これが僕の告白に対する君の答えだった。君が必要以上に虚勢を張って、誰かを演じているのは知ってる。
でも、君が演じている誰かも間違いなく君なんだ。
あの作り笑顔の奥にも君は居るはずなんだ。
「どんな君でも好きだよ。」
なんて無責任なことは言わない。
「ありのままの君が好き」
とも言えない。だって君が隠してしまうから。きっと、僕は本当の君のことなんて何も知らないから。

僕が好意を伝える度、君は苦しそうに笑う。まるで自分にはその言葉を受け取る権利が無いとでも言うように。

いつかは僕の気持ちが伝わる日が来るといいなって思ってる。それまでは絶対諦めないからね。

2/12/2024, 7:56:54 AM

駅前の街頭ビジョンに街を荒らす怪物の映像が流れていた。映画の宣伝とかではなく、実際に起きているニュースだ。なんでも、人間が急に怪物になって暴れ出すらしい。フェイクニュースだとか都市伝説だとかいろいろな噂が出回っている。皆、クソったれな現実に嫌気が差しているのだ。俺だって今の上司は気に食わないし、部下は仕事舐めてんのかってくらい使えねぇし、もっと自由な時間がほしい。いっそ、あんな風に大暴れできたらスッキリするだろうな、なんて決して人前では言えないことを考えていた。

信号が青に変わって歩き出そうとしたとき、後ろから誰かに肩を掴まれた。そいつは俺の耳元で何かを囁いた。何を言われたのか分からないまま、俺の意識は遠ざかっていった。

ふと意識が浮上したとき、目の間にはモニターが一つあるだけで他には何も無い空間にいた。身体が鉛のように重い。モニターにはさっきまで俺が歩いていた街並みが無惨に破壊される様子が映されていた。俺が怪物になって壊しているのだ。不思議なくらい何も感じなかった。期待した爽快感も、感じるはず、感じるべき罪悪感も何も無い。画面の端に学生の頃に親友とよく遊んだ思い出の場所が破壊される様子も見えたが、俺はただ呆然と画面を見ていることしか出来なかった。

次に目を覚ましたとき、俺は駅前のベンチに座っていた。あれはただの夢だったのかと思えるくらい街はいつも通りだ。何も変わらなかった。変わらずにクソったれな日常が続いている。
それでも、暫くはこの場所で頑張ってみようと思った。