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駅前の街頭ビジョンに街を荒らす怪物の映像が流れていた。映画の宣伝とかではなく、実際に起きているニュースだ。なんでも、人間が急に怪物になって暴れ出すらしい。フェイクニュースだとか都市伝説だとかいろいろな噂が出回っている。皆、クソったれな現実に嫌気が差しているのだ。俺だって今の上司は気に食わないし、部下は仕事舐めてんのかってくらい使えねぇし、もっと自由な時間がほしい。いっそ、あんな風に大暴れできたらスッキリするだろうな、なんて決して人前では言えないことを考えていた。

信号が青に変わって歩き出そうとしたとき、後ろから誰かに肩を掴まれた。そいつは俺の耳元で何かを囁いた。何を言われたのか分からないまま、俺の意識は遠ざかっていった。

ふと意識が浮上したとき、目の間にはモニターが一つあるだけで他には何も無い空間にいた。身体が鉛のように重い。モニターにはさっきまで俺が歩いていた街並みが無惨に破壊される様子が映されていた。俺が怪物になって壊しているのだ。不思議なくらい何も感じなかった。期待した爽快感も、感じるはず、感じるべき罪悪感も何も無い。画面の端に学生の頃に親友とよく遊んだ思い出の場所が破壊される様子も見えたが、俺はただ呆然と画面を見ていることしか出来なかった。

次に目を覚ましたとき、俺は駅前のベンチに座っていた。あれはただの夢だったのかと思えるくらい街はいつも通りだ。何も変わらなかった。変わらずにクソったれな日常が続いている。
それでも、暫くはこの場所で頑張ってみようと思った。

2/12/2024, 7:56:54 AM