いつからだろう、あれだけ楽しかったゲームをやっていても心を動かされることが減ってきたのは。プレイを始めた頃は本当に楽しかった。少しずつコンテンツが解放され、できることが増え、行ける場所も増え続けた。その1つ1つに心が踊りすべてのコンテンツにじっくりと向き合ってプレイしていた。時に何度も失敗しながら挑戦し続け、時に共に始めた友人と攻略方法についてああでもないこうでもないと意見を交わしあった。それだけで時間は簡単に過ぎていき、夜更かしをするようになり朝が辛くなる日が増えた。
だが今はどうだろうか。新しいコンテンツが実装されてもすぐに攻略に挑むことはせず、ある程度時間が経過して情報が出揃ってからガチガチに予習をして挑戦するようになった。共に始めた仲の良い友人たちもリアルが忙しくなっていくに連れて一人また一人と辞めて言ってしまい、残ったのは片手で数えられるほどになってしまった。
そしてその日は唐突に訪れた。『新天地での心踊る冒険』そんな触れ込みで最新のアップデートが行われた。しかし蓋を開けてみれば多少の目新しさこそあるものの、これじゃない感の強いものだった。ワクワクが強かったはずの冒険が機械的に取り組むだけの『ココロオドル冒険』になるまでにそう時間はかからなかった。だから私は冒険を止めた。
キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り試験監督の先生が最後の教科の終了の合図をする。
長い長い勉強期間を経て、今ようやく1次試験が終了した。これまで毎日のように寝ても覚めても勉強勉強で精神をすり減らしてきた私にとってやっと訪れた解放の時だ。ここ半年は読みたい本ややりたいゲームも積んできた。どれから手をつけようかを考えるとワクワクが止まらない。
しかし、完全に試験が終わった訳では無い。この後今日の採点結果を元に通過者が発表され、その中で再び試験が行われるからだ。唯一の救いとしては2次試験は1次試験のようなその人の持っている知識を問う記述試験ではなく、その人の人柄を問うような口述試験であるところだ。つまり、ある程度話したい内容さえ固めてしまえばそれさえ忘れずにいることで対策が完璧になるところだろう。これまでのように朝から晩まで勉強漬けの日々を過ごす必要もない。
とはいえしばらくはつかの間の休息としてこの解放感に浸っていたい。ようやく1つの山を越えられたのだから。
ついにこの時がやってきてしまった。年に何回か存在する一大イベント、そう推しの実装である。この時に備えて石はずっとため込んできた。そして神イラストに性能も人権級ときた。これはもうひかない理由がないというものである。アップデートのわずかな時間すらもどかしく想いながら速攻でガチャ画面に遷移、まずはお決まりのおはガチャからだ。結果は当然爆死。当たり前すぎて何の感情もわいてこない。そのままの勢いで最初の10連を回す。光る画面、いわゆる確定演出というやつだ。勝利を確信しタップを繰り返す。そして私の目の前に現れたのは“すり抜け”だった。落胆する気持ちが抑えられないが、まだ序盤も序盤、天井を叩くことだってできるのだ。まだ私に焦りはなかった。そこからはあっという間だった。様々なオカルトを試しながら石を砕いていく。時折挟まるロードや演出に心乱されるも、推しが私に微笑んでくれることはなかった。そして迎えた最後の10連。ここまで来てしまったら天井は確定している。しかし、複数枚重ねる必要があるのだからここで出てくれたとしても何ら問題はないのだ。祈りを捧げタップする指にすべての力を込めてガチャを回す。そんな私を待ち構えていたのは…無情な現実だった。
自分の人生を振り返ってみると、短いながらも様々な失敗をしてきたものだと思う。小さなところではLINEでの誤字やバイト先での計算ミスなんかがある。こんなものは気が付いたら即訂正すればいいし、たまに突っ込まれて恥ずかしい思いをしても笑いに昇華してしまえば良いのでかわいいものである。しかし大きなミスになるとそうもいかなくなることもある。例えば高校3年間の勉強習慣がそれにあたる。公立の難関進学校である高校に受かって満足してしまい、あまり勉強しないまま1年半が過ぎ、いざ進路を考え始めたときにはすでに選択肢がかなり狭まってしまっていたのだ。そして、結局第一志望の大学には届かなかった。
とはいえ、後悔はしていない。この失敗も今の自分を形作る1ピースであるというありきたりなことを言うつもりはないが、例えば大学であればその場所でしかできなかった交友関係もあるし、一度失敗したからこそ、誰かに伝えることができる話だって存在する。これからも成功だけでなく失敗も愛しながら生きていきたいものである。
私は毎朝起きるとテレビを点ける。そして、いわゆる朝番組を流しながら朝の支度を進めていく。普段新聞を読んだりニュース番組をじっくり見たりすることができないためにここで情報収集を行うという側面もあるが、それ以上に私が重要視しているのが星座占いのコーナーだ。絶対に見落とさないようにここにあわせて朝食を食べるようにしているほどだ。そして、その結果によって喜んだり、ショックを受けたりする。朝から占いの結果一つで一喜一憂して疲れそうと思われるかもしれないが、結果が良ければ一日中気分良く過ごすことができるし、悪かったら悪かったでこの瞬間が一番運勢が悪い瞬間なんだとポジティブに捉えることで、やっぱり一日中気分良く過ごすことができる。だからこのルーティンは全体に欠かすことができないものなのだ。
ちなみにラッキーアイテムはあまり気にしないようにしている。もちろんハンカチやペンなどの小物だったら鞄に入れて持っていくのだが、わざわざ持っていないものを買ったり、邪魔になるものを持ち歩いたりはしない。狭い部屋に一人暮らしなため、油断するとすぐに手狭になってしまうからだ。そうこうしているうちに私の星座の順位が発表された。結果は6位。こういう中途半端な順位が困ってしまうのだが、まあここから右肩上がりで運気が上がっていくことだろう。さて、今日はどんな素晴らしい一日になるだろうか。