君と飛び立つ
私は怖がりだ
遊園地に行ってもまずジェットコースターやお化け屋敷なんて行かないし、なんなら予防接種の注射針ですら相当の勇気が必要だ。
それでもやらないで出来なくなってから後悔するのは嫌だと挑戦を続けてきた
そして今日新たに一つ挑戦する
とはいえ流石にこれは無理だったので1番の親友に協力を仰いだ。
「そろそろポイントに到着します」
とアナウンスが聞こえてきた
当たり前だけどこの瞬間の緊張は言葉では言い表せないし、一生慣れることもないだろう。
でも視線をあげればそこには見慣れた親友の顔があり、私も覚悟を決めた
「準備はよろしいですか?」
すぐそばから聞こえる声に頷く
数瞬の後ついに扉が開かれ冷たい風が吹き込んでくる。
そして私は君と空へと飛び立った。
なぜ泣くのと聞かれたから
なぜ泣くのと聞かれたから私は正直に伝えた
自分がクラスメートから度を超えたいじめを毎日のように受け続けていること
助けを求められない自分にも非はあるのかもしれないが誰からも手を差し伸べてもらえず一人孤独に耐えていたこと
あなたはそれを一言一句聞き逃さないように真剣に聞いてくれた
そして聴き終わった後には私を励まして先生に伝えてくれるとまで言ってくれた
それだけで私は救われたような気持ちになった
だからどうか気に病まないでほしい
悪いのはその訴えを聞いてなお通り一遍の説教だけで済ませて解決したと思い込みそのあとは一切の不干渉を貫いたあの教師なのだから
その後一向に改善されないどころかより一層エスカレートしていく私のいじめを見て再び先生に相談を持ちかけてくれたこと
にも関わらずいじめられている側にも問題があるのではないかと取り合おうともせず追い返されてしまい私に申し訳ないと謝って彼らとの間にまで入って物申してくれたこと
全部私には眩しかった。
でも私は知ってる。そのせいであなたにまでいじめの手が伸び始めていること。それが私には許せない
だから私は自分の命をもって彼らに復讐する。
そんなオカルト的なことできるわけがないのかもしれない。でも私はできると信じてる。この恨みの念は間違いなく彼らを苦しめる。
だからどうかあなたは泣かないで。笑って見送ってほしい。いじめから解放されて良かった、と。それだけで私は満足だから。
さようなら
私の家族とあなたとその大切な人に幸福が訪れますように
不幸は全て私が受け持ってあの世へ行くから。
人生無限の選択肢があるよと言ってみるものの私の未来への鍵はマスターキーじゃないから開かない扉だってある
それが自分が開けたい扉の時、私は泣くほど悔しがるのだ
今日はクリスマス、世間は浮き足立ちそこかしこから笑い声が聞こえてくる。人によっては大切な人とチキンやケーキなどを食べて楽しむのだろう。しかし、受験生である私にとっては何の関係もないことである。机に向かって真剣に参考書の問題を解く。この時ほど周囲に住宅街がなく閑散としていることに感謝したくなる日は今後訪れないのではないか、そんなことを考えながらひたすらに解き続ける。
そうやって勉強してどれだけの時間が経ったのだろうか、そんな時部屋のドアがノックされ開かれる。
「ケーキとコーヒー持ってきたから少しは休憩しなさい」
母さんが差し入れを持ってきてくれたのだ。
お礼を言って受け取り時計を見ると既に2時間は経過していた。
その事実を認識するとドッと疲れが襲ってきたので早速ケーキを食べることにする。
「美味しい」
糖分が脳を癒していくのを感じながらのんびりとケーキをつつく。
15分ほどかけてコーヒーまで飲みきって再び勉強に戻る。
さっきまでの疲れはどこへやら。まだまだ暫くは勉強出来そうであった。
夜は長い、この調子ならこの単元は終わりそうだ。
第1志望の受験の日、かつてないほど緊張していたのだがカラーンカラーンカラーンというベルの音で全て緊張は飛んでしまった。まさかテスト開始と終了の合図が1人の教授がハンドベルを手に鳴らして回るとは思っていなかった私はかつてないほどリラックスして試験に向き合うことが出来た。
あの音は私にとっての救世主であることは疑いようがない。