とある二人

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8/27/2024, 1:43:37 PM

あ、と思った時にはバケツを引っくり返したような大雨にずぶ濡れにされてしまっていた。


どこか雨を凌げる場所を探すも運悪く周りには屋根のある建物は無く、せめて恋人だけでも身体を冷やさない様に羽織っていたジャケットを頭に被せてやったがこの土砂降りの中ではあまり意味のない事だったかもしれない。


恋人の腕を引き、大きな木の根元で雨宿りさせてもらうことにした、枝の間から雫がぱたぱたとこぼれ落ちてくるが直撃を受けるよりかは遥かにましだ。


「こんなに濡れたの初めてかもしれない、ちょっとわくわくするね」


被せていたぼたぼたに濡れたジャケットを絞っていると恋人は何が面白いのかくすくすと笑い、空の様子をじっと見る。
そして「ねえ、見て」と木々の隙間から空を指す。

先程までどす黒い雲に覆われていた空は半分明るい光が差し込みだし、もう半分はまだ分厚い黒い雲に覆われ雨を降らしていた。


「雨の境目だね、初めて見たよ」

恋人は空の神秘に興奮気味だ。
普段見ない表情にたまにはこんな足止めも悪くないと少し思った。









雨に佇む

8/26/2024, 10:26:05 AM

「もし嫌じゃなければ……」

恋人が差し出したのは一冊のノートだった。

「今日あった事や何を思っていたのか、数行でもいいから書いて交換しないかい?」

面倒臭いと思わなかった訳では無いが恋人がどんな事を書いてくれるのか知りたくて頷いた。
普段文章なぞ作成する事がない自分は恋人が望むものを書けるだろうか。
「期待するな」と釘は刺しておくと恋人は嬉しそうに笑った。

「じゃあ最初は僕から書くね!」


嬉しそうにノートを抱えて部屋に戻ったのが昨日の夜の筈だったが、朝身支度を整える為に部屋から出ると足元にノートが置かれていた。
ノートの表紙には丁寧な文字で『次は君の番だよ』と記載された付箋が貼られている。


ペース早すぎないか?とは思ったが案外楽しみにしていた自分も居て、寝巻きのままだが恋人の気持ちを綴った文章を読む為に再度部屋に戻った。





僕たちの日記帳

8/25/2024, 1:49:18 PM

かふぇって知ってるかい?行ってみたいな、という恋人のリクエストに答え、恋人好みのカフェを死に物狂いで探し出した。



二人掛けのテーブル席に案内され内装を楽しそうに眺めたりする恋人はかなりはしゃいでいる様に見える。はっきり言って凄く可愛い。

「君は何を頼む?」

メニューをテーブルの真ん中に置いて二人で覗き込む。
どうも落ち着かない。何故かそわそわする。

メニューを見るふりをして恋人を盗み見すれば向こうもこっちを見ていたのか視線がぶつかる。


「いつも隣同士に座るから向かい合わせだと何だか緊張するね。でも君の表情がいっぱい見えるのが楽しいかも」と照れ笑いを浮かべた恋人に今度は二人横並びで座れるソファ席のあるカフェを探そうと心に決めた。








向かい合わせ

8/25/2024, 6:44:23 AM

街へ行かないか?

珍しく君が誘ってきたものだから二つ返事で着いてきたものの、二人だけという状況に心臓がばくばくしてる。
止まれ僕の心臓!いや、止まるな死ぬとか1人謎の問答をしていると少し余裕が生まれた。


そして余裕の生まれた僕は、折角の機会だから手を繋いでも良いのではないか?とか思ってしまい、

少し前を歩く君の手を握った。


その手は握り返される訳でもなく、一瞬君の肩が揺れた気がしたがその後はピクリとも動かなくなってしまった。


もしかしたら気持ち悪がられた?
そういえば僕、直接好きとは言われてない。
勝手にお互い好き合ってると思っていだがまさか、友情的に僕を好きだった、とかだとこの状況はまずい。


どうにかして誤魔化さなければ!と君の顔を恐る恐る覗き込むと反対の手で顔を隠しているけど耳まで真っ赤にしていたものだから、僕の先程まで感じていた焦りや不安ややるせない気持ちとか全部飛んでいった。





やるせない気持ち

8/23/2024, 12:53:08 PM

知ってるかい?

生命の起源は海だそうだよ。
だからかな、主はよく最期は海に還りたいと言ってるよね。
きっと世界のひとつになれるからって。
また大切な誰かに会えるかもしれないって。


じゃあ僕たちはどこへ還れるんだろうね。
炎に焼かれても玉鋼に還ることも溶けることも出来ない僕たちは。


ああ、僕も海へ還れたらいいのに。
そしたらまた君と出会えるかもしれないから。





海へ

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