『不条理の庭』
目が冴えるほどの絶景の下 溢れ出す悪口と妬みで
会話(と言っていいのだろうか)が成立している
これが彼等の愉しみだとしたら 私の喉を庇護するものがいよいよ悪魔になるだろう 感謝と感謝は睦み合い 淀みのない川に溶けていく そんな庭を想像していた 彼等の会話を紡ぐ糸のほつれが やりようのない鬱屈を増幅させる
『君が好きそうなメロンパンを見つけたよ』
休憩時間も束の間 感情線の小槍の上でアルペンダンスは踊れない 嘲笑われても放っておかれても
ここでなんか泣けない泣かない 万人の涙を誘う旋律も 無難に美味しい時短レシピも 見ないふりして
敢えて無視して 走り出す 走り出す それだけ聞いたら 私は絶賛青春謳歌中 そういえば飲み物を買ったコンビニで 君が好きそうなメロンパンをみつけたよ
『身震い』
いつか切り取った夕暮れの端くれが頭に過る
あれは下北沢駅前の踏切りか マリーローランサンの
花の画か 嫌な記憶でもないのに身震いしている
霊的ななにかと勘違いしてその身震いが加速する
こんな時に独りは嫌だと我儘を言う 嫌いな人混みの中に紛れていたいと切に願う
『満天』
星々は狂おしいくらい煌めいて 夜空の妬みを埋めていく 心のしこりが心のこり そんなのどうでもよくなって 楽器を奏でたい夜がやってくる 植物博士は宴が好きさ モノマネ子猿はすでに眠たげ みんなの星を認めあって 輝き合いひとつになっていく
『麝香猫の夜』
奥深い眠りから醒めた朝 窓の雫と蜥蜴の亡き骸
しゃがみこんでみつめる先は 今しか見れない新世界
空想好きの私はいつも ペンとノートを片手に持って
生きてる証を残そうと 足掻くように詩を書いた
この詩は私の糞そのもの 読んでもいいし捨ててもいい いつのまにか夜がまた来る 麝香の匂いで何故だか私は目が冴える