君はいつもと打って変わってムスッとしていた。
ー寝不足?
私は心配で、何でそんな表情なのか聞こうとするが、君はいつもより怖くて、喋りかけるができなくなって、
行き場を失った手を、気づかれる前にサッと隠した
気まずい雰囲気が、私達の周りをずっと漂っていて、
私は何故か痺れを切らして、
「あのさ、君なんか悪いことでもあったの?」
「そんなことないけど。」
「ならさ、」
と言って、君の顔に手を添えるような感じで、
君の口角をグイッと上げた。
「いつもみたいにさ、スマイルでいて?」
「お、おう…」
少し戸惑った感じで君は言う
君の耳が、何故か赤くなっていることが分かり、
私は泣かせてしまったのではないかと思って、屈んで君の顔を覗く。
そしたら、君はスマイルじゃなくて、デレデレの顔を浮かべていた。
─スマイル─
特に思いつかないけど、強いて言うのであれば恋のことだろうか。
君に対するね。
こういうのは言葉で伝えるのがごもっともだと私は思うが、
できた試しがない。だから、ここに書いてしまおう。
私は君のことが好きだ。この世界の誰よりも好きだ。
会った時から感じていた。君が私の運命の人だって。
君の笑顔、寄り添い方、話し方
全てが私の光となっていたんだ。君はまるで天使のような。そんな気がした。
私はそんな君にとってどんな存在なのだろうか。
考えてばかりは嫌だけど、こればかりは考えるしか無さそうだ。
……あれ、ここに書いてしまったら、もうそれはどこにも書けないことでは無いのでは…?
ーどこにも書けないことー
時計の針がチッ、チッと音を奏でる。
私はこの音が嫌いだ。昔からこの音を聞くと恐怖に駆られるから。
最近は慣れてきたのだけど、心の奥底ではまだ恐怖を感じている。
そんな時だった。ピコンとスマホの通知が鳴る
今暇なんだけど、一緒に絵描かない?
君からのLINEだった
OK!でもどっちの家?
俺ん家でいいよ〜
ありがとぉ~!
と返して急いで準備をする。ハンガーに掛けてあったパーカーを羽織って私は外に出る。
その時鳴っていた時計の針の音は、私を励ましている気がした。
そう思うと次第に、時計の針の音が好きになった。
ー時計の針ー
君と離れてから、長い時間が過ぎた。私は別の友達といることで、心に空いた穴を埋めていたはずだった。
だけど、私の心に空いた穴は埋まらなかった。それに加えて大きな虚無感が、私を襲う
その無限ループにはもう飽き飽きだ。
そう思いながら、私は布団に入った。
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気づいたら、私は黒いロッキングチェアに独り座っていた。
私はそこから居なくなろうとして立とうとすると
「やあ、文風海喑」
「え?」
「あ、動揺させてしまったか。私は君だ。」
「本当ですか。」
「ああ、本当さ。」
「ドッベルゲンガーですか?」
「いや違う。というかこんな雑談してる場合じゃない。早速本題に入ろう」
「今からいくつか質問をする。君は、思ったことを率直に言うだけで構わない。」
「分かりました。」
「では一つ目、君は何故あの子との縁を君自身から切ってしまったんだい?」
「それは、私があの子といると、迷惑かけたり、荷物になったりするかなって思って。」
「そうか。では二つ目、君はあの子ともう一度あの時のような日々を過ごしたいと思うか?」
「思うよ。あの子と離れた時から、心にぽっかり穴が空いたっきりだし、それをほかの人では埋められない。大きな虚無感が、私の中にずっといるんだ。だけど、あの子はそれを許してはくれないだろう。なんせ、これは私のエゴに過ぎないから。もう私には諦める道しかないような気がしてきたよ。」
「諦め半分、やり直したい気持ち半分ってところか。では次が最後の質問だ。」
「お前が諦めた、あの子はお前にとってどんな存在だった。お前はあの子との出会いを悪い経験として受け止めているのか?そして、」
「お前は今でも、あの子を愛しているか?」
その質問を受けた時、私の視界がぐにゃりと歪んで、滴り落ちる感覚がした。
「私は、私は今でも、あの子のことを愛してる!この世界の何よりも!私はあの子と会った事、あの子と話したこと、全てが運命だと思ってる!あの子は私にとって、光だったんだ!間違いだらけの私を救ってくれた!
なのに、なのに……」
私は床に崩れ落ちる。そして私はただひたすらに泣いた。
「これで質問は以上だ。今のお前には、やることの目星はついているだろう。私は何も言わない。
もう直ぐお前はここから居なくなるだろう。まあ、また逢うことがあったら、あの子の話、聞かせてくれよ。」
「うん!」
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私は目を覚ます。どうやら夢だったそうだ。私は君が一体誰なのか。本当に私なのかを考えながら外に出る準備をする。私は向かいにある君の家に行ってインターホンを鳴らすと「はーい、」という声が聞こえてきたから
「海喑だよ〜」と言うと急にドアが開いて、君が出てくる。君を見た瞬間私は泣いてしまった。君は少し焦りながらも私を家に入れてくれた。
「落ち着いた?」
「うん…ごめんねわざわざこんな対応してくれて。」
「それでさ、海喑は何か言いたいことがあって、俺ん家に来たんだろ?」
そう君が言った瞬間、私は君に抱きついてしまった。
「私、君ともう一度話したり、絵描いたりしたい!あの時一方的に君との縁を切っちゃったけど、またやり直させてくれる?」
「ああ、もちろんだ。」私のことを君はぎゅっとしてくれる。
私は君とまたやり直すことが出来たんだ。
そう思うと嬉しさと、安堵の気持ちが同時に溢れるようにやってきて、私はそこで、
「愛してる。ずっとずっと」
と今までにないとびっきりの笑顔で言ってみせた。
ー溢れる気持ちー
君のところから離れよう。
私はそう考えた。君のところから離れたらどうなるだろうか。
というか、君のところから離れた方が、いい気がしたんだ。
そう考えていた、深夜二時。
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翌日─
君は唖然としながら私にまた問いかけてくる。
「ホントに言ってる?」
「そうだよ。君とはもう話さない。じゃあね。」
と言って、手を振る
私からやめたはずなのに、もう一度やり直したい気持ちでいっぱいだ。
どうして。
私は君と一緒にやりたかったこと、したかったことはもう無いのに。
あっ、
やり残したことといえば、
最後に君に、
キスしたかったな。
そんな未練を噛み締めながら、
私の思い出をポイッと、ゴミ箱に捨てた。
ーKissー