はじめは、声を聞くだけで、嬉しくなった。
一緒にいると、楽しかった。
笑う顔を見れば、幸せな気持ちになれた。
でも今は、声を聞くだけでは、不十分で。
一緒にいると、離れることを考えて苦しくなる。
笑う顔を見れば、私以外にも笑うのだろうかとどこか腑に落ちない気持ちになる。
私はいい子でいたいのに。
あなたがかわいいと言う、私のままでいたいのに。
私、あなたの1番に、なりたい。
《特別な存在》
真っさらな部屋。
空間、と表現した方が正しいかもしれない。
上下左右、見渡す限りの白。
まるで霧の中のようなその場所で、漠然と、夢なのだろう、と他人事のように思った。
もし、これがそうであるならば叶うかもしれない。
意識の揺らめいた昼下がりのように重い思考の中に、すうっと何かが形を成す感覚。
夢ならば、記憶の水底に沈んだあの人を感じられるかもしれない。
夢であるならば、あの人に会いたい。
もう顔もおぼろげなあの人に。
もう声も思い出せないあの人に。
もう、どこにもいない、あの人の影に。
《夢が醒める前に》
どこかの、誰かにとっての雨の振る日とは、
落ち着いた気分になれる日だろうか。
空気につられて気分が落ち込む日だろうか。
ある雨の日、小さな傘を閉じたまま、長靴で大きな水溜まりを狙って歩く子を見かけた。
なんとも楽しげな様子で、
私にはその無邪気さが、心底眩しくて。
ふと、傘を放り出して歩きたいような気がした。
きっと、体の芯まで冷えて風邪をひくのだろう。
それも楽しそうだと、思った。
少しの羨ましさを抱えて、ただ横目に小さな無邪気さを見た雨の日。
その日、少し周りを見ることの楽しさを知った。
《胸が高鳴る》
「どうかこの恋が実りますように」
「どうか合格しますように」
どうか、どうか……。
今日この時までに多くの願いに、触れてきた。
多くの祈りを、聞いてきた。
目を閉じて懸命に願うものもいれば、心の中でそっと静かに祈るだけのものもいた。
それらの願い、祈り、どれも等しくその行く末を見守ることしかできなかった。
知る力はあれど、私は彼らの望みに応えるすべを持っていない。
だからいつしか、私も彼らと同じように祈り願うようになった。
どうか彼らの進む道が幸多きものとなりますように。
どうか涙するものが一人でも減りますように。
どうか、誰も、私に願わぬ日が来ますように。
《不条理》
ふと、私を追い越していった風につられて顔を上げる。
街の灯りのせいだろうか。
夜空に散らばる星はいくらか霞んで見えた。
空を見あげたのはいつぶりだろう。
小さい頃、山を背に見上げた夜空にも同じ星があったはずなのに、あの時ほど心が震える感覚がない。
あの時ほど、静かな夜ではないからだろうか。
あの時ほど、星が明るくはないからだろうか。
しばらく眺めた後、前に視線を戻す。
ひたすらに、上を向けば月と星以外の明かりのないあの場所が恋しい。
視界から溢れるほどの夜空が見たい。
さて、父母への土産は何がいいだろうか。
《星が溢れる》