手を伸ばしても届かないもの。そんなものは、世の中に沢山ある。手が届かないから、努力して色々なものを捨てて手に入れようとする。
手に入れて少ししたらもう飽きるくせにね。
#大事にしたい
「ほらすぐ〇〇は拗ねるから」
何回話しかけても無視してくるから諦めたら、そう言われた。
「別にわたし拗ねてないし」
「そういうとこが拗ねてんでしょ」
そういう意図して言っていないのに、悲しいかな人間は過去の経験から相手の気持ちを推し量る。今回は合ってない。本当に拗ねそうだ。絶対に拗ねてやんないけど。
「で、なんの話なん?」
「もういい、大したことないもん」
あーあ、こういう自分が嫌いだ。拗ねているようにしか話すことができない自分が。そもそもかまって欲しいから話しかけたくせに。
「……俺が拗ねるよ?」
予想外の言葉に慌ててしまう。
「あっえっ、どういう、いやなんでそうなるん」
彼は頬をつんとつついて言った。
「そういうとこ、可愛いんだもん」
#時間よ止まれ
ずいぶんと遅くまで残ってしまった。時はすでに20時。今日文化祭があったとはいえ、これほどまでに遅く残るのは、流石に先生に怒られてしまった。
独りで帰る。わたしの学校が駅近なこともあり、ほとんどの生徒が電車で登下校する。だから、徒歩のわたしはいつも一人で登下校している。それなのに、なぜだか今日はそれがひどく寂しくて少し悲しい。下だけを見てとぼとぼと歩いていた。
疲れていたはずなのに、帰りたくなかった。無意識の内に、海に着いていた。歩いて1時間ほどはかかるはずなのに、まだ10分しか歩いていない気分だった。
残業でできた光。海沿いの工業地域が輝いていた。どうにもその光はわたしを落ち着かせない。なんだろう、もうとっくに気力だけで働いているような、そんな気分。わたしと同じだ。
あ、そういえば今日の夕飯シチューって言ってたっけ。早く帰んなきゃ。
高校生の考えはすぐに変わるものだ。重たい足がとれて、わたしは帰路に着いた。
#夜景
『新幹線の席決めた〜?』
友達からLINEが来た。そういえば修学旅行の新幹線、まだ決めてなかったな。明日までに決めなきゃなんだっけ。
『特に決めとらんで!』
即座に既読がついて返信が来る。
『隣座ってもええ〜??』
ドクンと心臓が跳ねる。特に意識してなかった相手なのに、何故か心拍数が上がるのを感じる。あの人が誘ってくるなんて、いや、でもそうと決まったわけじゃ。
『ええよー』
本心とは反対に、了承してしまう。そんな途中でも独り言が絶えない。
-----え誘ってくるなんて思ってなかった、でも誘ってきたってそういうことかな?でもあの人別にわたしに興味あるわけじゃないよね?でもよく話しかけてはくれるよなぁ、けどあれは別に好きとかじゃなくってただ友達だからだよね?え、そうじゃないとかあるのかな、いやあの人そういう恋愛とかあんましな気がする、けど誘ってく------
『窓側が良いとかある?』
『仰せのままにどーぞ!』
なんだろう、この心の変なのは。別に、好きとかではないのだろうな、わたし好きな人いるし。それにあの人はそういうつもりで仲良くしている訳でもないから、というか一緒に遊んだこともないし。けれど、なんだか恋愛感情ではないはずの何かが、心の中を支配している。
わたし何考えとるんやろ。そう思ってほっぺをパチンと叩いた。
#君からのLINE
百物語かって突っ込みたくなるほど、蝋燭がならんでいる。けれど、それらは少しずつ長さが違って中には火が消えてしまっているものもある。
30歳の同窓会。元3年3組のメンバーが集まっていた。社会に順応して初めてだったから、なんだかみんなやつれていて、僕にはもう人とは思えない。
僕には、約40本の蝋燭しか見えなかった。特に個性を持つことなく、火が揺れている。僕の蝋燭は何色だろう。
#命が燃え尽きるまで