足りないものなどないはずなのに、満たされない。
満たされないからと暴れてまた、人が離れていく。
他人がいないと生きていけないから、愛想を振り撒いてもどうせ元の木阿弥。
無駄なことならしなきゃいいのにとは思うけれど、人肌が恋しくて繰り返す。
#喪失感
騙されて、騙されて、気付かぬふりをして。
あなたがわたしに興味ないことは知っているけれど、
わたしは今日も両思いのふりをする。
#踊るように
わたしたちは同じ貝じゃなかったみたい。だってそうでしょ? 二枚貝になろうとしても、どうしても合わない。でもそれを見て見ぬフリして、「わたしたちって運命だね」なんて笑ってたっけ。今思うとすごくくだらないのに、何故だろうその頃はとても楽しかったんだよ。
#貝殻
心の中がバレていた。彼はわたしの好きな人を当てた、わたしが彼を好いているということを。そんなに分かりやすかったかなとは思うけれど、バレているのならもう隠す必要はないかもしれない。ただただ恥ずかしい。周りは動いているはずなのに、何も頭に入ってこない。目の前を通り過ぎる車と人が、水を跳ねて進むのが見えるだけ。
「くるみ分かりやすすぎ。僕が好きな人おらんとか言ったらすぐ拗ねるしさ」
わたしは鈍感。いやいや、でもでも。
「可愛いなあって思ってたよ」
彼がよくわたしに会いにくるなあとは思ってたけれど、それはきっと友達の範疇で、恋愛感情はないと思っていた。わたしはそう思い込んでいたに違いない。混乱しすぎて記憶がまばらになってきた。空気を読まない車が信号で目の前を止まる。
「いつからなん?」
「内緒」
「んもう」
なんだろね、この胸のごわごわした気持ち。綿が詰められている感じ。でもね、なぜか不快じゃない。きっとただ混乱してるだけ。
「まあそういうことです。くるみはどうしたいっすか?」
なぜか敬語になる彼。
「んー……いつも通り接してくれたらそれで嬉しい」
「……曖昧なんが一番困るんすけど」
彼はなぜか嬉しそうに笑った。もっと彼に近づきたかったけれど恥ずかしくなって、帰ろ、とだけ言って立ち上がる。もちろん彼もついてきたけれど何も話せなくて、ただ雨上がりの音が耳にぶつかるだけだった。
#雨に佇む
同じ方向を向いているのは、あなたがわたしに興味がないから。
あなたには分からないでしょう? わたしの一方通行の気持ち。楽なの? 楽なんでしょうね。
もう我慢はしないから、わたしはあなたを突き放すことにする。
#向かい合わせ