『お題:鏡』
僕には鏡のような友人がいた。
友人と呼んで良いものか、少々疑問には思っているのだけど。
彼は他人のはずなのに、僕に瓜二つの顔立ちで妙に親近感を覚え、毎日会っては何気ない話をするのがお決まりになっていた。
ただ、今日はダメだった。
少しだけ話す内容を間違えてしまったのだ。
「今日は暑いね」
僕が話題を振る。
すると彼は、
「今日は暑いね」
と、共感の意を言葉にしてくれる。
「最近は全然雨とか降らないね」
「そうだね。最近は全然雨とか降らないね」
「隣のクラスの菅沼くん、期末試験の現代文、満点だったらしいね」
「そうだね。隣のクラスの菅沼くん、期末試験の現代文、満点だったらしいね」
「それにしても、自分に取り柄がないと生きるのがつらいよね」
「そうだね。自分に取り柄がないと生きるのがつらいよね」
「何のために生きてるのかわからなくなるよね」
「そうだね。何のために生きてるのかわからなくなるよね」
「いっそのこと、死んじゃえばいいのかな」
「そうだね。いっそのこと死んじゃえばいいよ」
「……?」
お前、誰だ?
『お題:いつまでも捨てられないもの』
もはや中毒だ。
何度も何度も手を出して、暴れ回るように貪って、やめたい気持ちはあるのにどうしても欲望を捨てられない。
中毒性があるのがいけないのか、依存気質になってる自分がいけないのか。
答えは誰も知る由もない。
塩っ気を帯びた硬いようで柔らかなあの体躯。
その味を占めたら、もうこの衝動は捨てられない。
やめられない、とまらない。か○ぱえびせん。
『お題:誇らしさ』
ごめん。いま俺、すっごく誇らしい。
最強の武器を手に入れたんだ。
なんでも貫く最強の武器さ。
誇らしさ満点。
なんでも防ぐ最強の盾があったとしても、俺の誇らしき武器の方が勝っちゃうに決まっている。
何処で手に入れたかを聞かれると、RPG上で俺が不利になるネタバレになっちゃうから若干濁しちゃうけど。
うーん、神様とかを祀っている場所……で、正しいかな。
こんな美味しい話、誰かを唆すのも勿体無い。
俺の強さを示す、それだけで充分だ。
この何とも言えないほこらしさ、実に良い気分だ。
『お題:夜の海』
揺蕩う。何よりも高く、何よりも深いあの海を。
真珠のような煌めきを繋いで「絵本のお話みたいだね」って君と笑いあった、あの日の夜。
泳ぐこともできなければ、水もない。だけれどあの日のそれは紛れもなく海であった。
望遠鏡なんていらなかった。僕と君の目に、脳裏に、記憶に焼きついているだけで、その物語は確かに残り続ける。
君がいなくなっても、僕は夏が来るたびにこうしてあの日を思い出す。
君の命が細く淡くなっていく様を、ただただ見つめていることしかできなかった、あの時の穢れた僕の命をどうか許してほしい。
そんな言葉は届くはずもない。だけど、月明かりに照らされた時、どうしても君を思い出してしまうんだ。
夜の海の煌めきを繋ぎ合わせて紡いだ、君と僕の思い出という名の物語を。
八月、厭に暑い夜。天を見上げると、そこには今日も依然として広い海が広がっていた。
君がいなくても、それでも僕が生きていても。
海は何も語らずに、僕の思い出を物語にしてくれた。
また来年も、そのまた次も、何年経っても。
どうか、物語へ馳せた想いが、遠い遠い場所にいる君に届いてくれますように。
『お題:透明』
誰にも見えない。透明なんだから。
何をやっても僕だってことはわからない。透明なんだから。
僕がいることは誰にも気付かれない。透明なんだから。
僕の主張は誰にも届かない。透明なんだから。
誰も僕を見つけようとはしない。透明なんだから。
透明であることに意味はないのかもしれない。だけどそれはわからない。透明なんだから。
見えない鍵が僕を世界から乖離させる。透明なんだから。
SNSのフォロワー0人の鍵アカウントってこんなかんじですかね。