『お題:夜の海』
揺蕩う。何よりも高く、何よりも深いあの海を。
真珠のような煌めきを繋いで「絵本のお話みたいだね」って君と笑いあった、あの日の夜。
泳ぐこともできなければ、水もない。だけれどあの日のそれは紛れもなく海であった。
望遠鏡なんていらなかった。僕と君の目に、脳裏に、記憶に焼きついているだけで、その物語は確かに残り続ける。
君がいなくなっても、僕は夏が来るたびにこうしてあの日を思い出す。
君の命が細く淡くなっていく様を、ただただ見つめていることしかできなかった、あの時の穢れた僕の命をどうか許してほしい。
そんな言葉は届くはずもない。だけど、月明かりに照らされた時、どうしても君を思い出してしまうんだ。
夜の海の煌めきを繋ぎ合わせて紡いだ、君と僕の思い出という名の物語を。
八月、厭に暑い夜。天を見上げると、そこには今日も依然として広い海が広がっていた。
君がいなくても、それでも僕が生きていても。
海は何も語らずに、僕の思い出を物語にしてくれた。
また来年も、そのまた次も、何年経っても。
どうか、物語へ馳せた想いが、遠い遠い場所にいる君に届いてくれますように。
8/16/2024, 9:54:42 AM