ねぇねぇ! 面白い遊びを思いついたんだよ!
こうやって、木の枝に止まるでしょ?
そうするとね、地面に僕の影が映るんだ。
木に紛れて僕の影があるの、どれが僕の影かわかる?
ここだよ! 軽く揺さぶって、動いたのが僕の影!
こんなに大きな影を動かせるってすごくない? 木の一部になってるんだよ、すごくない!?
面白いでしょ! ほらほら!
チュンチュン、と小鳥は楽しそうに木の枝に止まりおしゃべりをしていた。
揺れる木陰はその後もしばらくあった。
【揺れる木陰】
俺はこの春、ニートになった。
四月に新卒入社して、五月の大型連休明けから出社拒否して、現在にいたる。
親には伝えていない、伝えられない。
だから、いってきますと朝に家を出て、誰も来ない公園の草むらで寝そべっている毎日をすごしている。
草のちくちくとした感覚と、たまに蟻か何かの虫が腕をよじ上ってくる感覚がある。
草の青臭さと土の湿った匂いがある。
目を閉じると、この腐った世の中を忘れて、風を感じる。
大の字に寝そべって、今日も大地に吸い込まれていた。
そしてだんだんと眠くなる。夜も寝たのに、心地よい眠気が襲ってくる。
真昼の夢は、ちょっとの罪悪感と、勝ち組のような幸福感に包まれておちていった。
【真昼の夢】
この秘密は、墓場までもっていこう。
二人だけの秘密だよ。
そう言われて早20年、もちろん秘密はもらしていない。
「ママ~、行ってくるよー」
「はーい、気をつけていってらっしゃーい」
私は今年大学生になった愛娘を見送る。
私の愛娘であるが、旦那とはきっと血は繋がっていない。
怖くて検査こそしていないが、旦那とその時期そういうことをしていないから、きっと違う。
馬鹿な旦那は計算とかも分からず、疑わず、自分の子として育てていた。
もちろん、娘もわかっていない。自分の本当の父親を。
「あ、ママ、お隣の早見(ハヤミ)さんが呼んでるよー、じゃあね!」
娘が扉を再び開けて、それだけ告げて大学へと向かっていった。
早見さんは、私が結婚してここに引っ越してきて、お隣さんの気の効くおじさん。
水道が壊れた時に直してくれて、粗大ごみの処分の手伝いもしてくれて、夫婦間のあれこれも相談できた……
二人だけの秘密だよ。
私は早見さんの元へと向かった。
【二人だけの。】
陽が長くなって、
めちゃくちゃ暑くて。
飲み物が恋しくなって、
冷たいものが美味しくて。
蝉が鳴き始めて、
蚊が鬱陶しくなる。
生まれて来てから何回目のループになるだろう。
毎年毎年、これらを感じては、あぁ、夏が来たな、と思っていた。
ゲリラ豪雨とかいって、
いつの間にか太陽が陰った。
水道管が破裂して水がでなくなり、
体を冷やす夏野菜も酷暑でとれなくなった。
豪雨と酷暑で蝉は羽化できなくなり、
夏の風物の蝉の声は聞こえなくなった。
いつからだろう、当たり前の夏が当たり前じゃなくなって、新しい夏が生まれたのは。
それは、あなたにとって、新しくて嬉しい夏? 変化に動揺して怖い夏?
【夏】
今日の最高気温は35℃。なのに、俺の彼女は未だに長袖だ。
さすがにおかしいだろう。
俺は意を決して、彼女に問う。
「ねぇ、いつまで長袖なの?」
え?、と彼女は固まる。
「前は寒がりだから、とか言ってたけど、寒がりどころの温度じゃないじゃん」
彼女は黙りこくる。
「来週からは夏休みなのに、俺、デート中ずっと長袖の彼女引き連れてデートするの?」
彼女は俯いた。
ちょっと言いすぎてしまったかもしれない。
「……浴衣着てお祭りとか、行く」
「海で水着姿とかは?」
「それは……ちょっと……私、腕、太いし……」
「俺は全部受け入れるから!」
彼女は、絶対に何かを隠している。
隠された真実は、隠したままの方が幸せでいられるのだろうか?
否、隠したままのわだかまりがあるほうが不幸だ。
俺は、いつかこの隠された真実を暴こうと思う。
【隠された真実】
2023/05/28の【半袖】の続きです
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