春の日差しは穏やかで、夏の日差しは狂気に満ち溢れていて、秋の日差しは彩ってくれて、冬の日差しは温もりをより感じた。
四季折々の日差しで、でも日差し自体はなんら変わっていないはずなのに。
その時の感情や、気温や、風景で、人は日差しを感じ取っていた。
あなたの場所には、日差しは届いていますか?
それは温かいですか? それは痛いですか?
私に取って、日差しは恐怖でしかありません。
私はアルビノ。元より色が白いのです。
少しの日差しで、私の皮膚はただれてしまいます。日焼けではありません、重度の火傷になるのです。
みんなの言う、穏やかで温かな日差しを私も拝んでみたいものです。
【日差し】
蒸された空気で窓ガラスは結露していた。
今日も雨かとうんざりする。
素手で雑にその水滴を拭いてみる。
見慣れたいつものうちの庭。
……ではなかった。
「なに……!?」
思わず濡れることも構わず、服の袖でゴシゴシと窓を拭いてみる。
違う、うちの庭がそこにはなかった。
窓越しに見えるものは、炎。
雨のはずなのに、火の手が見えた。
火災? 近所で? いや、そういう炎ではない。
炎だけではなかったのだ、窓からみえたものは。
--ドラゴンがいたのだ。
「……うそ」
【窓越しに見えるものは】
私はあなたが大好き、見つけるとすぐに食いついちゃう。
目の前にいなくても、微かな音であなたの居場所もわかっちゃうんだ。
あ、今、その草陰に隠れたでしょう?
私はあなたが隠れた草陰に飛び付く。
ほーら、捕まえた。
羽をバタバタさせて、必死に私から逃げようとする。
そんなに暴れて、可愛いわね。
逃げられないのが分からないのかしら?
私とあなたは、赤い糸で繋がれているのよ。
羽をむしって、喉元に歯を食い込ませる。
赤い糸が赤い水溜まりに変わる。
やっと大人しくなったわね。
私は棲みかに持ち帰る。
ごめんなさい、赤い糸で結ばれていたのは、あなただけじゃなかったみたい。
私は電線に並んでいるあなたのお仲間を見て、にやりとした。
私には、電線から赤い糸が何本も垂れ下がってみえた。
【赤い糸】
人は俺の姿を見るとこういう。
「夏の空だねぇ」
と。
そんな悠長なことを言っていていいのかな?
今からこの場に、俺は大嵐をもたらそう。
大人達は、しみじみと夏の空とは言うものの、俺の正体を知っているので、そそくさと洗濯物を取り込んだり、建物の中へと入っていく。
子ども達は、俺のことを知らないらしく、そのまま外遊びを続けていた。
今までからっと晴れていて、夏空が広がっていたと思いきや、突然辺りが薄暗くなる。
そして、大雨と雷を轟かせた。
子どもが泣きながら家へと散り散りとなる。
今の大人達は、子ども達に伝えていないのだろうか?
俺の姿を、入道雲を見つけたら、雷を伴った雨が降る、ということを。
【入道雲】
まだ梅雨は明けていないが、そろそろ夏がやってくる。しかし、その夏の前には、梅雨の他にも試練があるものであって。
「こら、ちゃんとテスト勉強やってるの? シュウト」
雨が降ってる中、どこにもでかけられず、俺は彼女のモモカと勉強をしていた。
ペン先でプツリと頬をつつかれる。痛い。その反動で、頬杖をつきながら窓の外を見ていた俺は、姿勢を正した。
「テスト良い点数とって、なんの役に将来たつんだよー」
俺はやる気なさげに、教科書やノート、プリントに目をやる。
「将来役にたたなくても、雑学として覚えておいて損はないでしょ、テレビ見る時楽しくなるよ?」
「えー、そんなの良いことでもないよー」
「良いことがあれば、頑張れるの?」
モモカはペンを走らせながら俺に問う。
「見返りがあれば皆がんばるでしょ! だから俺は働いたらお金が貰える就活組なのだ!」
俺はガッツポーズをしてみせる。その姿にモモカは苦笑いをした。そして、彼女はこう提案をする。
「じゃあ、テスト一つにつき80点以上とったら、夏休み中に一回デートしようよ、で、全部の平均点数90点以上とれたら、夏休みにお泊まりデート!」
「お泊まり!?」
俺の声が静かな図書室に響く。恥ずかしい。
「でも、一個も80点とれなかったら、夏休みの間デート禁止」
「えぇぇぇ」
高校三年の最後の夏。せっかく彼女がいるのに、デート禁止は辛い。友達と過ごす夏もいいが、海に祭りにプールに彼女と過ごすと充実するイベントが盛りだくさんなのに……!!
「俺、頑張る」
彼女は、チラッとみて俺に笑みを浮かべる。
「まぁ、天才の私もこの勝負に参加するから、お泊まりデート一回は確約だね? これは対戦じゃなくて協力戦だから、がんばってよ?」
「おぉぉぉ!」
図書室の窓際の席で、俺は一人震えていた。
楽しいものの前には試練がある。夏の前には梅雨があって、夏休みの前にはテストがある。
俺の夏は明るいものだと信じ、テストに挑むのであった。
【夏】