まだ梅雨が明けていなく、湿度が高い夜のことだった。
君と最後にあった日も、こんな時期で、雨は降っていないけれども、じとじとした湿気の高い中を歩いていた。
寒くもないけど手を繋いで、今日が本当に最後だなんて思わずに、二人仲良く歩いていた。
「1ヶ月だけ研修に行くだけなんだから、そんな心配しないでよ」
君は、はにかみながらそう言う。
専門学校の研修で、1ヶ月程違う県に行ってしまうらしい。
たかが1ヶ月、されど1ヶ月である。
「……明日から会えないの寂しい」
「こういう時にツンデレなんだから」
君は手を繋いだまま、優しく頭を撫でてくれた。背伸びしてとても撫でづらそうだった。
「だから行く前に夜だけどお散歩デートしたいって言ったのねー」
君は小さく、まったくもう、と呟いた。
「とりあえず、手紙は書くから」
「うん」
湿気のせいもあるが、手がじとっとしているにも限らずに、君は強く手を握りしめてくれた。
あれから20年、まだ君は帰って来ない。
君と最後にあった日から、20年である。
湿気の高いこの梅雨の時期に夜の散歩をすると、君と最後にあった日を、最後のデートを俺は思い出す。
蛙が嘲笑うかのように、げこげことないていた。
【君と最後にあった日】
花を育てる時、みんなはどうしてる?
時間帯関係なく水をあげている?
逆に常に水をあげている?
日差しの強い日光に常にあててる?
逆に室内でカーテンも閉めっぱなしにしてる?
花だって生き物で、ただ声があげれないだけ。
本当は今は水はいらない、って根腐れしてない?
本当はもっと水がほしい、って萎れてない?
実は花だって訴えているんだよ。
僕の好きな花は、去年咲かなかった。
こんなに愛を注いでいたのに、なんでだろう。
与えすぎるのもよくないらしい。
僕の好きな花は、今年は綺麗に咲いた。
色んな情報を見て、駆使してみた成果だろう。
繊細な花は、適当では咲かないらしい。
僕の好きな花は、来年も咲いてくれるかな。
【繊細な花】
好きなものをレジに持っていって買い物をする大人達。
子どもの頃は、それが羨ましくて仕方がなかった。
親がだめだと言えば、自分の好きなものが買えなくて。
早く大人になって、好きなものを買いたいと思った。
漫画におもちゃにお菓子にゲーム。ほしいしやりたいことはたくさんあったのに、お金がないから、すぐ使わなくなるから、と、全然買ってもらえなかったあの頃。
それに引き換え、お母さんは使いもしないダイエットの機械とか買ってるじゃん、お父さんはめちゃくちゃ高い車を数年おきに買い換えてるじゃん。
子どもの頃は、とにかく大人達だけずるいと思った。
今、自分が大人になってみると、物価が高くなって、カップラーメンや自動販売機が段々と高価になってきた。
毎日の生活のための電気代だって値上がりしていく一方だし、あの頃と同じで、やっぱり大人になっても、好きなものを買うことなんてできない毎日。
逆に、子どもの頃は気にしていなかった家賃や携帯料金まで気になるようになって。
あの時は娯楽の好きなものを我慢するだけでよかったのに、今ではそれにプラスして食費まで我慢しなくちゃいけなくなっている。
子どもの頃は何も考えないで暮らしていたのに、大人になると大変なんだなぁ、と、家計簿を見つめて私は思った。
【子供の頃は】
刺激のある毎日なんて求めません。
平凡でありきたりな日常を求めています。
好きな人が既婚者で、交際をするなんて危険な橋を渡りたくありません。
人の幸せを奪って幸せを掴むのは辛い。
借金をしていつかあたるかも、というギャンブルはしたくありません。
みるみる減っていくお金と、次こそは、の次が全くこないいたちごっこは辛い。
生活が苦しくて、法を犯すことはしたくありません。
最初こそあった罪悪感を忘れ、それが当たり前という狂った思想は辛い。
平凡でありきたりな日常に飽きた人が、新たな挑戦と銘打って、自ら危ない領域に足を突っ込まないように。
いつもの日常がいかに大切だったのか、わかってほしいだけなのです。
【日常】
小さい時、好きな色は?、と聞かれたら、赤とか青とかピンクとか、みんなが知ってる色を即答していた。
ヒーローっぽいから赤!、男の子だから青!、女の子だからピンク!
今なら差別問題だったけど、幼稚園にもいかないくらいの年の頃は、大体そんなかんじだった。
少し大きくなってくると、意識をして好きな色を問われれば言うようになった。
紫と答えるとエローい、とか煽られるようになったり、黄色と答えるとカレー好きなの?、とか言われるようになった。
とんでもない偏見だけど、思春期なるかならないかの子どもは、そんなかんじだった。
大人になると語彙力も増えて好きな色にレパートリーが増えた。
肌が白いから服は映える青が好き、部屋の色は飽きないように白みたいなアイボリーが好き、なんて。
おかしいな。好きな色のはずなのに、直感じゃなくて用途で好きな色が変わってきた。
小さい頃は即答していた好きな色、大きくなって人の目を気にするように好きな色も考えて、大人になったら好きな色がその都度変わっていた。
あなたは好きな色、即答できますか?
【好きな色】