君は花を持ってきて、笑顔で僕に聞く。
「花占いって知ってる?」
六枚しか花びらがない白い花を押し付けてきた。
「……好き、嫌い、って言いながら、花びら摘まむやつ?」
「そうそう!」
君はにこにこしていたが、僕は小さくため息をつく。
「数えられるやつだと、逆算して好きで終わるか 嫌いで終わるかわかっちゃうんだよ?」
「そうなの?」
君はつまらなそうに口を尖らせたが、何かを思い出したかのように、それじゃあ、と、次の花を持ってきた。
「これなら、わからないでしょ?」
僕は唖然とした。持ってきたのは、あじさいだった。
「……これ、どこが花びらか分かっていってる?」
君ははにかみながら、さあ?、と悪びれずに答えた。
こういう君の適当なところが、嫌いで好きなんだよな、と、僕は笑った。
紫色のあじさいも、小さな花を咲かせて、まさに、お花が笑った感じがした。
【好き嫌い】
かつて、街として栄えていたこの場所。
今では立派なシャッター通り。
当時は沢山の飲食店や服、インテリア屋さんがあった。
しかし今となれば、シャッターは閉まりっぱし、アーケードの中を歩いても人はいない。
店の入り口と思われる所にはスプレーで落書きも多々見受けられる。
開発土地だ、なんて、囃し立てられて、たくさんの店が建った、よくわからない政党の事務所とかもあった。
でも今は治安が悪いと言われるくらい落ちぶれて、色んな人がこの街を出ていった。
あの時の活気はもう戻ってこないのだろうか、たくさんの人が行き交い、色んな買い物をしたり、それぞれの生活があったあの街は。
吹きさらしになったアーケード、今は管理者もいなく廃れていく一方のこの街で、私はまだひっそりと暮らしています。
【街】
時間が足りなすぎる。
たくさん稼ぎたいけれど、時間は有限であって。
やらなくちゃいけないこともあるけれど、そういうのは後回しになってしまうものであって。
仕事はたくさんして、お金をたくさんほしかった。
だから月に休みは片手で数えるくらい、残業時間も40時間もこえていた。
やらなくちゃいけない家事とかもあるけれど、仕事が大変でおざなりになっていた。
やりたいことをするためには、削れるところを削るしかなかった。
睡眠時間を削った。パフォーマンスが低下した。
食事の費用と時間を削った。体に不具合がおきるようになった。
やりたいことをする時間を増やそうとすればする程、自分の身が削られていって。
やりたいことは、絵を描くことです。小説を書くことです。歌を歌うことです。
……やりたいことは、身を削ってまでやることだったっけ……?
自分からすれば、身を削ってまでやりたいことだけれども、端から見たら鼻で笑われることなのかもしれない、と。
限りある時間に、やりたいことをするのは難しいとつくづく思う。
【やりたいこと】
カーテンの隙間からさしこむ光で目が覚めた。
時間はまだ五時。さすがに早い、まだ二度寝ができる許容範囲である。
(……ん? 朝日?)
ぼーっとしたまま、しばしその光を眺めた。
今は梅雨で、雨が続いている。久々に朝日を見た気がしたのだ。
もし、日中に雨があがって、太陽が出てきたとしても、それはギラギラの夏に近い太陽である。
でも、朝日はそんな攻撃的ではなく、朝ですよ、と、柔らかく包み込むような温もりを感じる。
しかし彼女は寝返りをうち、朝日に背を向けた。
朝日の温もりも心地よいが、今は布団の温もりの方が、何倍も気持ちがよいようだ。
【朝日の温もり】
6月上旬の梅雨入りした頃、俺の目の前に大きな二つの道があった。
就職するか、大学とかに進学するか、だ。
進学するにしては、今から試験勉強をして追い付くか謎。就職するとなると、俺なんかが社会に出て働いていけるか不安。
今の時代は大学卒業するのが当たり前。でも、親はお金は一切出さないと言いきった。奨学金で進学する? そのお金はきちんと返せるように働ける?
謎と不安のループ。
しかしもう六月。就職組はもう求人票置き場に足しげく通っているようだ。進学組もとにかく勉強をしているようだ。
俺だけが、岐路に立たされたまま取り残されているのだ。
誰かと一緒にその分かれ道を選ぶのは違う。これは俺の人生だから。
今年の梅雨が終わるまでには、決めなくちゃ、だよな。
俺はしとしとと降る雨を眺めながら、大きくため息をついた。空模様と同じ、どんよりとした表情で。
【岐路】