喜村

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6/7/2023, 11:00:54 AM

 どこかの大昔の預言者が、今日、世界が滅びると記述をしていたらしい。
そういう預言は、過去に何度かあった。
でも、滅びず今がある。
 しかし、今回はそうとは違うらしい。

 テレビをつけると、どこの番組も同じニュースを流している。
『巨大隕石接近中』とタイトルにはあった。
 世界中が混乱しないように、政府の中で隠していたらしい。あと12時間で到達すると言っている。
 恐竜が滅びた時以上の規模だとか、北半球の方に落下予定だとか。不安を煽ることばかり言っていた。
「朝からずっと同じニュースなんてみててもつまんないよー」
 彼女は俺の隣のソファーに座って、テレビの電源を切る。暗くなったテレビに俺と彼女が写った。
「なるようにしかならないでしょ? たまたまお泊まりデートの日でよかったねー」
「……よかったのか?」
「一人ぼっちで死ぬよりいいじゃん」
 世界の終わりに君と過ごす何気ない日常。
これからどうするのか、どうなってしまうか、わからない。
わからないけれど、君と一緒ならどうにかできるかな、と謎の安心に包まれた。
 彼女は、ねっ?、と俺の反応を伺う。
「そうだな、一人ぼっちより、好きな人と一緒のほうがいい」
 世界の終わりまで、隕石の落下まで、あと三時間と、最後俺がみたニュースには書いてあった。


【世界の終わりに君と】

6/6/2023, 1:08:55 PM

 もう夜の七時。
まだ全然家事ができてない。洗濯物も取り込んでないし、夕飯も作ってない、お風呂もわかしてない。
 なのに非情にも我が子は泣く。
どうして? ミルクあげたじゃん、ミルクは腹持ちいいんじゃないの? オムツもさっき変えたよね? なんで泣くの?
 私がうなだれていると、ただいま~、と旦那は帰ってきた。
「ごめん、今からご飯作るから、子守りしてて」
「えー、俺も仕事で疲れたから風呂入りたいんだけど」
「じゃあ一緒にお風呂入ってよ」
 旦那は明らかに嫌そうな顔をする。
どうして? あなたも子どもほしがってたよね? 機嫌のいい時しか構ってあげないの? 疲れてるのもわかるけど、私も疲れてるのになんで?
 我が子は日に日に泣き声も大きくなってきた。新生児の時は我慢できた泣き声も、今だと聞いていられなくなったのか、旦那はそそくさと脱衣所へと行く。
「……最悪」
 思わず口をついて出てしまった。
言ってはいけないと思っていた言葉。
でも、私も我慢がもうできないよ。
「……私も、最悪……」

【最悪】

6/5/2023, 11:32:13 AM

 男子高校生の多感な時期に、俺は誰にも言えない秘密を持ってしまった。
 別に、誰かを殺した訳でも、ヤバいくすりを始めた訳でもない。
なら言ってもいいと思えるが……
 俺は全身鏡の前に立つ。
「うーん! 可愛い、俺!!」
 俺はフリフリの淡いピンクのメイド服を着ている。ウィッグをつけて茶髪のツインテール姿。頑張ってメイクもしてみた。
 ちょっと輪郭がゴツいところを除けば、どこからどうみても可愛い女の子だ。
 そう、俺の誰にも言えない秘密は、女装。
好きな人は女の子で彼女もいる。でも、自分が綺麗で可愛くなることは快感である。
 でも、それを人に言えば、白い目で見られる。それは、彼女やお母さんでも。だから誰にも言えない。
 よく警察の特番で、女装をして夜道を歩くおじさんの映像とかを見ると、俺の将来とかもそうなってしまうのかな、と、自分でも心配になる。
 現実に戻ると、俺はため息をついた。
でも、鏡に映る今の俺は、明らかに可愛い。
 誰にも言えない秘密。今はまだ、わかってほしいとは思わない俺だけの娯楽である。


【誰にも言えない秘密】

6/4/2023, 10:34:17 AM

 目が覚めたが、目隠しをされていた。
目を開けたのだが、布の色しか見えなかった。
 手も足も何かによって縛られている。無理にほどこうとしても、ギリギリと皮膚に食い込んでくる。
 ここはどこで、俺はどうしてこんな状況になっている?
 体をゴロゴロと転がし、おおよその広さを確認するが、四畳半くらいの狭い部屋のようだ。しかし、何も物が置いていない。壁以外にぶつかるところはなかった。
 トランクルームというものだろうか。
この様子だと、俺は明らかに監禁されている。
 まずはこの狭い部屋から脱出しなければいけない。
床に顔を思い切り擦り付け、目隠しがずれてきたため、なんとか少し視界が開けてきた。
 やはり狭い部屋。窓は見当たらない。扉はあるがロックがかかっている。
どうしてここにきたのか、連れてこられたのか、気を失う前の記憶はやはり曖昧である。
 どこの小部屋かはわからないが、中の様子はわかった。
--さて、ここからどうするか、だ。

【狭い部屋】

6/3/2023, 10:41:32 AM

 私は、破れた恋ではない。文字通り、恋を失ってしまったのである。
 六月の頃である。湿度が高く、気温の高い日のことだった。
私の彼氏はサッカー部の部長。今日もグラウンドで部活をしていたのだが……
「ナギ! 大変! ハジメ君が倒れて救急車で運ばれたって!」
 同級生の女の子に最初に教えてもらった。
ハジメは私の彼氏である。彼女である私に、続々と報告が入ってくる。

 それからの記憶がない。
気がついたら、彼氏の葬式に出ていた。
 体が暑さになれていなく、炎天下の中飲み物も飲まず、重度の熱中症で亡くなった。
 いきなり大切な愛する人を失った。恋を失ってしまった。
 別れを告げられた、とか、片思いがだめになった、とかではなく、本当に突然恋を失ってしまったのだ。
 失った恋は取り戻せない。新しい恋が始まっても、ハジメとの恋は失ってしまった。
すっぽりと心が抜け落ち、何も考えられなくなっていた。
 さようなら、ハジメ。好きだったよ、ハジメ。


【失恋】

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