6月上旬の梅雨入りした頃、俺の目の前に大きな二つの道があった。
就職するか、大学とかに進学するか、だ。
進学するにしては、今から試験勉強をして追い付くか謎。就職するとなると、俺なんかが社会に出て働いていけるか不安。
今の時代は大学卒業するのが当たり前。でも、親はお金は一切出さないと言いきった。奨学金で進学する? そのお金はきちんと返せるように働ける?
謎と不安のループ。
しかしもう六月。就職組はもう求人票置き場に足しげく通っているようだ。進学組もとにかく勉強をしているようだ。
俺だけが、岐路に立たされたまま取り残されているのだ。
誰かと一緒にその分かれ道を選ぶのは違う。これは俺の人生だから。
今年の梅雨が終わるまでには、決めなくちゃ、だよな。
俺はしとしとと降る雨を眺めながら、大きくため息をついた。空模様と同じ、どんよりとした表情で。
【岐路】
どこかの大昔の預言者が、今日、世界が滅びると記述をしていたらしい。
そういう預言は、過去に何度かあった。
でも、滅びず今がある。
しかし、今回はそうとは違うらしい。
テレビをつけると、どこの番組も同じニュースを流している。
『巨大隕石接近中』とタイトルにはあった。
世界中が混乱しないように、政府の中で隠していたらしい。あと12時間で到達すると言っている。
恐竜が滅びた時以上の規模だとか、北半球の方に落下予定だとか。不安を煽ることばかり言っていた。
「朝からずっと同じニュースなんてみててもつまんないよー」
彼女は俺の隣のソファーに座って、テレビの電源を切る。暗くなったテレビに俺と彼女が写った。
「なるようにしかならないでしょ? たまたまお泊まりデートの日でよかったねー」
「……よかったのか?」
「一人ぼっちで死ぬよりいいじゃん」
世界の終わりに君と過ごす何気ない日常。
これからどうするのか、どうなってしまうか、わからない。
わからないけれど、君と一緒ならどうにかできるかな、と謎の安心に包まれた。
彼女は、ねっ?、と俺の反応を伺う。
「そうだな、一人ぼっちより、好きな人と一緒のほうがいい」
世界の終わりまで、隕石の落下まで、あと三時間と、最後俺がみたニュースには書いてあった。
【世界の終わりに君と】
もう夜の七時。
まだ全然家事ができてない。洗濯物も取り込んでないし、夕飯も作ってない、お風呂もわかしてない。
なのに非情にも我が子は泣く。
どうして? ミルクあげたじゃん、ミルクは腹持ちいいんじゃないの? オムツもさっき変えたよね? なんで泣くの?
私がうなだれていると、ただいま~、と旦那は帰ってきた。
「ごめん、今からご飯作るから、子守りしてて」
「えー、俺も仕事で疲れたから風呂入りたいんだけど」
「じゃあ一緒にお風呂入ってよ」
旦那は明らかに嫌そうな顔をする。
どうして? あなたも子どもほしがってたよね? 機嫌のいい時しか構ってあげないの? 疲れてるのもわかるけど、私も疲れてるのになんで?
我が子は日に日に泣き声も大きくなってきた。新生児の時は我慢できた泣き声も、今だと聞いていられなくなったのか、旦那はそそくさと脱衣所へと行く。
「……最悪」
思わず口をついて出てしまった。
言ってはいけないと思っていた言葉。
でも、私も我慢がもうできないよ。
「……私も、最悪……」
【最悪】
男子高校生の多感な時期に、俺は誰にも言えない秘密を持ってしまった。
別に、誰かを殺した訳でも、ヤバいくすりを始めた訳でもない。
なら言ってもいいと思えるが……
俺は全身鏡の前に立つ。
「うーん! 可愛い、俺!!」
俺はフリフリの淡いピンクのメイド服を着ている。ウィッグをつけて茶髪のツインテール姿。頑張ってメイクもしてみた。
ちょっと輪郭がゴツいところを除けば、どこからどうみても可愛い女の子だ。
そう、俺の誰にも言えない秘密は、女装。
好きな人は女の子で彼女もいる。でも、自分が綺麗で可愛くなることは快感である。
でも、それを人に言えば、白い目で見られる。それは、彼女やお母さんでも。だから誰にも言えない。
よく警察の特番で、女装をして夜道を歩くおじさんの映像とかを見ると、俺の将来とかもそうなってしまうのかな、と、自分でも心配になる。
現実に戻ると、俺はため息をついた。
でも、鏡に映る今の俺は、明らかに可愛い。
誰にも言えない秘密。今はまだ、わかってほしいとは思わない俺だけの娯楽である。
【誰にも言えない秘密】
目が覚めたが、目隠しをされていた。
目を開けたのだが、布の色しか見えなかった。
手も足も何かによって縛られている。無理にほどこうとしても、ギリギリと皮膚に食い込んでくる。
ここはどこで、俺はどうしてこんな状況になっている?
体をゴロゴロと転がし、おおよその広さを確認するが、四畳半くらいの狭い部屋のようだ。しかし、何も物が置いていない。壁以外にぶつかるところはなかった。
トランクルームというものだろうか。
この様子だと、俺は明らかに監禁されている。
まずはこの狭い部屋から脱出しなければいけない。
床に顔を思い切り擦り付け、目隠しがずれてきたため、なんとか少し視界が開けてきた。
やはり狭い部屋。窓は見当たらない。扉はあるがロックがかかっている。
どうしてここにきたのか、連れてこられたのか、気を失う前の記憶はやはり曖昧である。
どこの小部屋かはわからないが、中の様子はわかった。
--さて、ここからどうするか、だ。
【狭い部屋】