喜村

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6/5/2023, 11:32:13 AM

 男子高校生の多感な時期に、俺は誰にも言えない秘密を持ってしまった。
 別に、誰かを殺した訳でも、ヤバいくすりを始めた訳でもない。
なら言ってもいいと思えるが……
 俺は全身鏡の前に立つ。
「うーん! 可愛い、俺!!」
 俺はフリフリの淡いピンクのメイド服を着ている。ウィッグをつけて茶髪のツインテール姿。頑張ってメイクもしてみた。
 ちょっと輪郭がゴツいところを除けば、どこからどうみても可愛い女の子だ。
 そう、俺の誰にも言えない秘密は、女装。
好きな人は女の子で彼女もいる。でも、自分が綺麗で可愛くなることは快感である。
 でも、それを人に言えば、白い目で見られる。それは、彼女やお母さんでも。だから誰にも言えない。
 よく警察の特番で、女装をして夜道を歩くおじさんの映像とかを見ると、俺の将来とかもそうなってしまうのかな、と、自分でも心配になる。
 現実に戻ると、俺はため息をついた。
でも、鏡に映る今の俺は、明らかに可愛い。
 誰にも言えない秘密。今はまだ、わかってほしいとは思わない俺だけの娯楽である。


【誰にも言えない秘密】

6/4/2023, 10:34:17 AM

 目が覚めたが、目隠しをされていた。
目を開けたのだが、布の色しか見えなかった。
 手も足も何かによって縛られている。無理にほどこうとしても、ギリギリと皮膚に食い込んでくる。
 ここはどこで、俺はどうしてこんな状況になっている?
 体をゴロゴロと転がし、おおよその広さを確認するが、四畳半くらいの狭い部屋のようだ。しかし、何も物が置いていない。壁以外にぶつかるところはなかった。
 トランクルームというものだろうか。
この様子だと、俺は明らかに監禁されている。
 まずはこの狭い部屋から脱出しなければいけない。
床に顔を思い切り擦り付け、目隠しがずれてきたため、なんとか少し視界が開けてきた。
 やはり狭い部屋。窓は見当たらない。扉はあるがロックがかかっている。
どうしてここにきたのか、連れてこられたのか、気を失う前の記憶はやはり曖昧である。
 どこの小部屋かはわからないが、中の様子はわかった。
--さて、ここからどうするか、だ。

【狭い部屋】

6/3/2023, 10:41:32 AM

 私は、破れた恋ではない。文字通り、恋を失ってしまったのである。
 六月の頃である。湿度が高く、気温の高い日のことだった。
私の彼氏はサッカー部の部長。今日もグラウンドで部活をしていたのだが……
「ナギ! 大変! ハジメ君が倒れて救急車で運ばれたって!」
 同級生の女の子に最初に教えてもらった。
ハジメは私の彼氏である。彼女である私に、続々と報告が入ってくる。

 それからの記憶がない。
気がついたら、彼氏の葬式に出ていた。
 体が暑さになれていなく、炎天下の中飲み物も飲まず、重度の熱中症で亡くなった。
 いきなり大切な愛する人を失った。恋を失ってしまった。
 別れを告げられた、とか、片思いがだめになった、とかではなく、本当に突然恋を失ってしまったのだ。
 失った恋は取り戻せない。新しい恋が始まっても、ハジメとの恋は失ってしまった。
すっぽりと心が抜け落ち、何も考えられなくなっていた。
 さようなら、ハジメ。好きだったよ、ハジメ。


【失恋】

6/2/2023, 11:38:03 AM

 大人になったら我慢の連続だと知っていた。
上司にはぺこぺこしなくちゃいけないし、後輩にも気遣いをしないと辞めていかれるし。
 社会人五年目、まさに中間の年数。
いつから自分の感情やしたいことを圧し殺して生きてきたのだろう。

 そんな私にも、彼氏ができた。まだ付き合って1ヶ月。
 仕事が定時に終わることはほぼない。今日の仕事も夜十時に終わった。
辺りはとっぷり暮れている。そんな中、スマホを開くと、光がぼんやりと私と周りを照らす。
にやける私の表情が、近くに誰かいたらばれたかもしれない。
 この彼氏との少ししかやりとりできないが、これが至福の時だった。

 朝八時には、私はもう会社にいて仕事をしている。でも、今日頑張れば、明日は彼氏とのデート。
「ナカイさん、明日人が足りないので、出勤してくれるかしら」
 いつもの私なら、自己犠牲で嫌でも出勤していたけれど。
「すみません、明日は大事な予定があるので」
「……え、それは困ったわね、ナカイさんしか頼める人いないんだけど……」
「すみません、将来がかかってますので、出勤できません」
 初めて素直に正直に上司に言った。
窓から差し込む朝日がやけにすがすがしかった。



【正直】

6/1/2023, 10:12:45 AM

 体のあちこちが痛い。
腱鞘炎も腰痛も頭も痛い。
 ダルい身体で、ぼんやりとした視界を確認する。
--あぁ、朝か。
 サァとシャワーのような音が窓辺から聞こえた。きっと今日も雨なのだろう。
 六月は梅雨の季節というけれど、こんなにぴったり梅雨入りすることはないだろう。
 重い身体をお越し、カーテンを開ける。
窓には雨と結露した水滴と、自分のダルそうな姿が映っている。
「はは、ひどい」
 思わず笑った。
外の景色が酷いのか、自分の顔が酷いのか、はたまた両方か。
 一度大きく伸びをすると、体のあちこちがバキボキとなる。年はとりたくないものだ。
特にこの梅雨の時期に痛みが悪化する。
身体のメンテナンスが追い付かない。
 夏は夏で暑くて夏バテするが、梅雨も梅雨で節々に支障がでることを若者に伝えたい。
 本日もまた、朝が来たので、仕事である。

【梅雨】

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