大人になったら我慢の連続だと知っていた。
上司にはぺこぺこしなくちゃいけないし、後輩にも気遣いをしないと辞めていかれるし。
社会人五年目、まさに中間の年数。
いつから自分の感情やしたいことを圧し殺して生きてきたのだろう。
そんな私にも、彼氏ができた。まだ付き合って1ヶ月。
仕事が定時に終わることはほぼない。今日の仕事も夜十時に終わった。
辺りはとっぷり暮れている。そんな中、スマホを開くと、光がぼんやりと私と周りを照らす。
にやける私の表情が、近くに誰かいたらばれたかもしれない。
この彼氏との少ししかやりとりできないが、これが至福の時だった。
朝八時には、私はもう会社にいて仕事をしている。でも、今日頑張れば、明日は彼氏とのデート。
「ナカイさん、明日人が足りないので、出勤してくれるかしら」
いつもの私なら、自己犠牲で嫌でも出勤していたけれど。
「すみません、明日は大事な予定があるので」
「……え、それは困ったわね、ナカイさんしか頼める人いないんだけど……」
「すみません、将来がかかってますので、出勤できません」
初めて素直に正直に上司に言った。
窓から差し込む朝日がやけにすがすがしかった。
【正直】
6/2/2023, 11:38:03 AM