喜村

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4/4/2023, 12:56:14 PM

 思い詰めている君を見ると思う。
もう、それでいいじゃないか、と。

 俺が急死してしまい、子どもを一人で育てなければいけない重圧と、これからどうしたらいいかわからない不安に押し潰されそうな君。
 なんとかしなければ、と、もがいている姿を毎日見ていた。
声はでないし、体にも触れられないけれど、仏壇の前ですすり泣き弱音を吐く君をいつも励ましていた。
 もう頑張らなくていいじゃないか、なんて言ったら他人事のようかも知れないが、死んだ身からすれば、毎日不安事を聞かされ続けて、成仏したくても気になって成仏しきれないのだ。

 お前はお前のままでいい。
そのままでいい、それでいいんだ。

 泣いている彼女の傍らに寄り添って、聞こえてはいないだろうが、俺は慰めた。
 すると、遠くにいた愛娘のノドカが、俺を見つめ、次に仏壇の前で正座をしてすすり泣く彼女の頭を背伸びしてなででやる。
「……ノドカ、起きてたの?」
「パパの声が聞こえたから!」
 俺と彼女は、二人同時に、え?、と口走る。
「それでいいんだよね?」
 ノドカは、きっと、彼女には見えていない俺に問いかける。
 俺は泣きそうな顔で一つ頷いた。


【それでいい】
※【ずっと隣で】の続き

4/3/2023, 10:53:48 AM

 あたりは消毒された匂いで充満していた。あたりは白色で埋め尽くされている。
首だけを小さく動かすと、色々な管が張り巡らしてある。どれがなんの管だかわからない。
 私はどうしたんだっけ、今日はいつだっけ、今どういう状態なんだろう。
 声はでない、口が半開きになって呼吸は管でできているようだ。痛いの感覚もよくわからなくなっていた。

 もう、長くもないのかな。

 死に急ぎい訳でもないけど、生きててもずっとこのままなのも、それこそ何のために生きているのかわからない。
 治療をするためのお金ももうないのではなかろうか。
 死に際だから一つだけ、最期に一つだけ、お願いができるとすれば、自由に動きたいな。
ご飯を食べたり、寝返りがうてたり、外を駆け回ったり、歌を歌ったり、自由に、動きたいな。
 目を閉じたら、もう開く気力も体力もなくなりそうで、ぼんやりしたまま私はただ白い天井みていた。



【1つだけ】

4/2/2023, 10:36:52 AM

 あるところに もりのがっこうが ありました。 せんせいが 
「じぶんの たいせつなものを おしえてください」
と、 いいます。

 うさぎちゃんは にんじんを、
らいおんくんは おにくを、
からすさんは ぴかぴかの ほうせきを、
ことりさんは じぶんのこえを、
みんな それぞれの たいせつなものを おしえました。

 しかし せんせいは、 なんだか かなしそう。せんせいは いいました。
「ほんとうに たいせつなものは、 だれにも おしえては いけません」
そして、 こう つづけます。
「たとえ なかよしの おともだち。 たとえ かけがえのない かぞく。 それでも じぶんの  いちばん たいせつなものは、 おしえては、 いけません」

 みんな、 なんで? と、 くちをそろえて くびをかしげます。
「それは、 おおきくなったら きっと わかりますよ。 いまは わからなくても、 おぼえておいて くださいね」
 せんせいは そういいました。

【大切なもの】

4/1/2023, 2:40:15 PM

 4月1日は嘘をついても良い日。
嘘をついていいのは午前中までで、午後からはネタバラシタイムだよ。
 小さい頃からみんな通った道。テレビとかでもよくこの題材を取り上げている。
 でも、本当のことを嘘だと決めつける人もいる。なにもかも、この日だからだ。

「え? ともかちゃん今日誕生日なの?」
「うそ~!? エイプリルフールだから嘘ついてるんでしょ」
 毎年、このやりとりをする。
嘘じゃないんだ。本当なのよ。終いには、私も誕生日~、と煽ってくる人さえもいる。
 誕生日順に並ぶと、私は一番最後。その年の一番最後は4月1日生まれなのだ。
4月生まれの同学年とまるっと一年違うわけで、小さい時は体型差もすごかったが、
「ガチの誕生日なんだからプレゼントちょうだいよ」
と、態度はすごく大きく育ちました。
 嘘をついてもいいのが、4月1日のエイプリルフールだけど、私の誕生日もその日だから、覚えててよね?


【エイプリルフール】

3/31/2023, 10:20:30 AM

 バレンタインデーの時に手作りチョコレートを先輩に渡した。正式には、渡してもらった。
その中にはメッセージカードも忍ばせており、私のSNSやメールアドレス、ラインに至るまで、私の連絡つけれるものを全て書いた。
 ダメ元だったけど、まさか本当に返事がくるなんて。
『チョコレートありがとう、おいしかったよ』
 すごく嬉しくて、心の中で嬉しい悲鳴を轟かせる。
しかし、その後にまたメッセージが続く。
『実は、俺には彼女がいるんだよね』
 嬉しい悲鳴が悲しみの悲鳴になる。
--まさか……聞いてない、みたことない。
 きっと嘘だと思ったのだが、返事をうつ暇を与えずにまたメッセージがくる。
『でも、チョコレートや気持ちは本当に嬉しかったよ、だからメッセージ送ってるんだ』
 もう、スマホを見ているのにめまいがすり。
指が震えて返事がうてない。頭が真っ白で、目の前は真っ暗。
 信じられない、信じたくもない。何かの嘘であってほしい。
『彼女は年上だから、彼女がいる素振りしてなかったから、知らなかったのも無理ないけど……』
「やめて……」
 思わず、口からついてでた。私の声。
震える指で返事をなんとか打った。そして、送信した。
『お幸せに』


【幸せに】
※【何気ないふり】の続き

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