バレンタインデーの時に手作りチョコレートを先輩に渡した。正式には、渡してもらった。
その中にはメッセージカードも忍ばせており、私のSNSやメールアドレス、ラインに至るまで、私の連絡つけれるものを全て書いた。
ダメ元だったけど、まさか本当に返事がくるなんて。
『チョコレートありがとう、おいしかったよ』
すごく嬉しくて、心の中で嬉しい悲鳴を轟かせる。
しかし、その後にまたメッセージが続く。
『実は、俺には彼女がいるんだよね』
嬉しい悲鳴が悲しみの悲鳴になる。
--まさか……聞いてない、みたことない。
きっと嘘だと思ったのだが、返事をうつ暇を与えずにまたメッセージがくる。
『でも、チョコレートや気持ちは本当に嬉しかったよ、だからメッセージ送ってるんだ』
もう、スマホを見ているのにめまいがすり。
指が震えて返事がうてない。頭が真っ白で、目の前は真っ暗。
信じられない、信じたくもない。何かの嘘であってほしい。
『彼女は年上だから、彼女がいる素振りしてなかったから、知らなかったのも無理ないけど……』
「やめて……」
思わず、口からついてでた。私の声。
震える指で返事をなんとか打った。そして、送信した。
『お幸せに』
【幸せに】
※【何気ないふり】の続き
俺には年上の彼女がいる。
俺は高校二年生、彼女は大学三年生だ。
現在就活であう頻度がとても減った。
「おいウエダ、気ぃ抜けてんぞ!」
三学期始まってすぐの頃、もう俺は彼女のことで頭がいっぱいだった。
まわりには迷惑かけないように、バイトも部活も勉強も頑張って、何気ないふりをしていたが、限界がある。
そんなある日、部活中に一人の女の子が明らかに教室の窓から俺を見ていることに気付く。
気のせいではなく、文字通り食い入ってかじりついてみているのだ。
別の日、バイト先のレストランでは、ディナータイムでウエイティング用紙に名前を書いて、お客様を待たせていた。
「お待たせ致しました、二名でお待ちのミナ様」
そうご案内をすると、あの窓から見ていた女の子が元気よく返事をした。連れは短髪のボーイッシュな女の子のようだ。制服姿が別なので他校の友達の様子。
こちらへ、とご案内をし、水まで出してから、気になりすぎて俺から声をかける。
「あの……ミナ様は」
「様じゃなくていいです! ちゃん、で大丈夫です!」
「えっと……ミナちゃんは、俺に何か御用ですか?」
ミナちゃんは顔を真っ赤にさせる。文字通りの、真っ赤だ。
「いえ!? 別に!」
「いいの?」
「いいの!」
友人の言葉も切り捨てるようにする。
「ええっと……じゃあ、何年生?」
「1年◯組です!」
一つ下で◯組といったら、部活の後輩に一人いることを思い出す。
その場はそこで席を後にし、何気ないふりをしながら勤務していたが、俺は後日、後輩を呼び出した。
「お前のクラスのミナちゃん? だっけ? あの子、最近、俺のバイト先に来たりよく俺の事見てる気がするんだけどさ……俺には年上の大学生の彼女がいるから、ごめんねって言ってくれないかな?」
まだ告白された訳でもない思い上がりかもしれないけれども、間違いなく、あれはそういう態度だ。
それを後輩に向かって伝えてというのも変な話ではあるけれども。
これ以上付きまとわれていては、何気ないふりは難しい。
【何気ないふり】
※【伝えたい】の前の話にあたります
どうしてハッピーエンドだけが受け入れられるのだろう。
幸福感だけをみんなは欲しているの?
俺はいわゆる創作活動をしている。
内容的には、ファンタジー系を書けば、パーティーの主要メンバーが尊い犠牲になったり、主人公が闇落ちしたり。
恋愛系を書けば、何をやっても報われず、手に入れた恋人さえも手放すか自分が身を引くかの二択を選ばせ幸せの道を閉ざしてみたり。
他人の不幸は蜜の味とはよくいったものだ。
現実世界ではハッピーエンドしか受け入れてもらえないのは理解できるが、ここは俺が作った人とストーリー。だからいくらでもバッドエンドが成立できるのだが……
「君はこの作品で何を伝えたいのかな? どんな人に読んでもらいたいの? そういうのがないなら連載は難しいね。独りよがりの作品止まりだよ」
もう、何回このセリフを聞いただろうか。
そろそろ俺にもハッピーエンドとして、作家デビュー、できませんかね?
【ハッピーエンド】
僕は人と目をあわせられない。
とてつもない恐怖心にかられ、手が震えて冷や汗が出てくる。
目をあわせる以前に、他人の視線がとてつもなく怖いのだ。
きっとあの人は僕の事を冷ややかな目でみている、変な行動したかな? 格好が変だった?、と、余計なことまで考えてしまう。
その生活に疲れて、疲れきって、僕は引きこもるようになった。家からでなければ誰からも見られることはないから。
しかし、そんな生活をしていたら、今度は家族の視線にさえも気持ち悪さが生まれた。
今まで一緒に生活していたはずなのに、拒否感が半端なかった。
家にも居場所がなくなり、外には出たくなくなり、僕の今の居場所は強いて言えば、ベランダと小さな庭。
雨の日は屋根の下のベランダで、晴れの日は本当にお気持ち程度の庭にいた。
そんな僕の居場所には、いつも先客がいる。その先客は、いつも僕のことを見つめてくる。でも、苦ではない。拒否反応もでない。ガン見で舐めるように僕のことを見つめてくるのにだ。
ベランダの先客は決まって鳥達。餌付けをしている訳でも巣を作っている訳でもないのに、雨宿りにきているのだろうか、毎度あってしまう。
庭の先客は猫。野良猫の通り道なのだろうか、我が物顔で庭を歩いている。ちょっかいをかけてみると、めちゃくちゃガン見してくる。可愛い。
人に見つめられると、本当に気持ち悪くて負の感情しかうまれないのに、こういう動物に見つめられるとほんわかな気持ちになる。
あーあ、どうして僕は人なんだろうなぁ。
【見つめられると】
※【安らかな瞳】の続き
綺麗な桜の花が咲いていた。もう春になっていたのだな、と、気付かされる。
最近は仕事も忙しく、身体も思い通りに動かなく、気圧の変化で頭痛もする。
あたりを気にしている暇なんてないくらいに多忙だった。
今日は花散らしの雨で、桜の花びらは若干落ち始め、地面には絵になるような花びらの道ができていた。
雨で、桜で、落ちた花びら。
ただそれだけなのに、何故か感傷的になる私。
いつからこんなに余裕のない日々をしているのだろう。
心に余裕がないと、こんな何気ない風景にも心打たれてしまうのだろうか。
春雨じゃ濡れて行こう
なんて、国語の時間に習った言葉を思い出す。
私は傘を畳む。春の雨は優しくて、疲れきっていた私の心を包むように洗い流してくれた。
My Heartのライフゲージが少し回復した気がした。
【My Heart】