喜村

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2/5/2023, 11:12:51 AM

《私に会ってくれませんか?》
 このメールを送って、もう何日が経ったのだろう。
 私はあなたからの返事を待っているのに、全く音沙汰がない。
タイムラインは更新されているのに、どうして返事がないのだろう。
 あなたからの返事を待っているこの時間さえも、どんどんあなたへの思いが溢れ出てくる。
今何をしているのかはタイムラインを見てなんとなく分かっているし、なんなら私以外の誰かとやり取りしているのも、表でみえている分にはわかっている。

……どうして?

 どうして返事をくれないの?
こんなに私は愛しているのに。それに答えず他の人とやり取りしているなんて。

 彼のタイムラインにラーメン屋があった。
ここは近くはないが、チェーン店じゃなくそこにしかない店--電車で片道二時間くらい。
毎週金曜日の仕事終わりに行く、仕事の定時が夜七時だから……。
 考えはまとまった。あっという間だった。
 直接伝えよう。この溢れる気持ちを。
待っててね、大好き。


【溢れる気持ち】
※【君に会いたくて】の続き

2/4/2023, 11:37:13 AM

「ユウカちゃん、次のデートどうする?」
 僕の初恋の相手、ワタナベさんはうきうきしながら聞いてくる。
 ここまで打ち解けるまで、本当に長かった。
クラスメイトからいじめられて、鎖でぐるぐる巻きだった彼女に、ようやく心からの笑顔を出せるようにしたのだから。
でもきっと、彼女は簡単にまた扉を閉ざすこともできるであろう。僕はそうならないように毎日最新の注意を払っている。
「聞いてる~? ずーっと怖い顔してるよ?」
「……真剣に考えてる」
「あはは、そっかー!」
 彼女は僕より一歩前を歩き始める。
「でも、私は笑顔のユウカちゃんが好きだよー?」
 この子はすぐに僕に好き好き言ってくる。
嬉しいけど恥ずかしい。
「僕も、ワタナベさんにずっと笑顔でいてもらえると嬉しい」
 そういうと、彼女は立ち止まった。
変なことを言ったかな?、と、顔を覗き込むと。
「ちゅっ」
 ワタナベさんに、キスをされてしまった。
顔が一気に暑くなる。
「あはは、ユウカちゃん顔真っ赤~!」
 いたずらに笑い、彼女はまた僕の前を駆けていく。
キス一つでこんなに笑顔になってくれるなんて。
嬉しいけど恥ずかしい。

【kiss】
※【手袋】の続き

2/3/2023, 11:51:51 AM

 人の命は限りあって、だからそのために精一杯生きるのであって。
それが仮に1000年先も生きていたら、日々の感激は薄れていくものである。
 だから、人間は儚いけれど、毎日が輝いていて羨ましいと思う。

 偉そうに言っているが、お前は誰かって?
私は地中深く眠っている化石だ。元は命を宿しているが、それももうずっと昔の話だ。
それこそ、千年やそこらではない。
そしてこれからも、誰かが掘り起こさなければ、千年先もここで眠っている。

 あぁ、しんだら終わりだと思っていたのに、こうやって何千年も体は古びてはいるが存在している。
こんなことなら、生きていた時にもう少し名前をとどろかせていればよかった。
 みんなも、しんでもそのまま残る場合もあるから、悔いなく生きてくれよ。


【1000年先も】

2/2/2023, 11:13:06 AM

 この花は、春の訪れを知らせる花なんだって。
小さくて可愛いね。
 パパとママが出会ったのも、ちょうどこの花が咲いている春の時期に出会ったのよ。
春は出会いの季節っていうけど、本当にその通りだったな。

 ノドカは、パパのこと覚えてる?
ノドカが今よりもーっと小さい時にお星様になったんだけどね。
この花を見ると、ママはパパのこと思い出しちゃうんだ。
 ノドカも、まだパパのことを覚えていたら、忘れないでいてあげて。パパ、きっと喜ぶから。

 パパ、あなたはまだ私達のこと、覚えてる?
見守っててくれている?
私達も覚えているから、忘れないでいるから、あなたもちゃーんと、忘れないで見守っててね。


【勿忘草】
※【とりとめのない話】の続き

2/1/2023, 10:52:07 AM

 こんなに良い天気なのに、公園には誰もいない。私が子どもの時は、親や友達と一緒にこの公園にきていたのに、人っ子一人いない。
少子高齢化とは言うけれど、これ程子どもを見なくなってしまったのかと思った。

--キィ……

 風に揺れて遊具のブランコが鳴る。
きっと整備もなれていないだろう、随分と錆び付いている。
 お昼休憩でコンビニ帰りの袋を持っていた私は、そのブランコの鳴き声に足を止める。

--キィ……

 私は周りを見回した。誰も見てない、よね?
 コンビニの袋を片手にブランコに着席する。
せっかくなので、ここでお昼ごはんを食べよう。
もし人が来たら避ければいいよね?
よくドラマとかで、サラリーマンがワンカップ片手にブランコやベンチに座ってるシーンを見る。
 私はサンドイッチを食べながらため息をつく。
いつからか、私もそんな大人になってしまったのか、と。

--キィ……

 漕ぐまではいかないが、足でブランコを揺らしてみる。
懐かしい音がした。


【ブランコ】

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