沈んでいく太陽、だんだんと暗くなっていく空、キラキラと輝く海……そこに逆光で表情は見えないけれど、確かにそこにいる被写体の彼女。
俺はひとしきりシャッターを切り満足すると、彼女は海辺からパタパタと砂浜の方に戻ってきた。
「いい写真撮れたー?」
彼女は笑顔で俺の横につく。俺は一つ頷いた。
「ならよかったー、ベスポジだと思ったんだよ、あそこ」
彼女はそう言うと、また波打ち際へと歩を進める。
すると、裸足のまま、砂に何かを書き始める。
「……なに書いてるの?」
俺が問うと彼女は書きながら口を開く。
「あーい、える、おー、ぶーい、いー……」
書いている文字を口に出す彼女、しかし
「あ!」
書きかけだった文字が、ザーっと波で消されていく。彼女は、あーあ、と残念そうである。
「あとちょっとだったのにー」
彼女は文字を消した波を蹴ってやる。飛沫が遠きに飛ぶ。
しかし俺は、書いていた文章を頭で整理すると、顔が暑くなった。
残念そうな彼女の表情もまた、すごく可愛い。ほんと、自慢の彼女だ。
「俺もI Love……」
「ん? なに?」
「……なんでもない、さ、帰ろ」
空はすっかり暗くなり、肌寒くなりつつあった。
俺も波打ち際へと向かい、彼女の手を繋いで、砂浜へと導いた。
【I LOVE…】
※【逆光】の続き
夜の街は危険だ。
人通りが多いところでもキャッチが多くいるし、人通りが少ないところだと奇声を発してる人やおかしな人もいる。
明かりが灯っているだけで足元や景色がはっきり見えるくらい、田舎以上に何がおこるかわからない。
なのに私はどうして街へ出たのだろう。
空気は汚いし治安は悪い。物価も高いし小競り合いも多い。
交通のべんがよかったから? それくらいしか今考えたらそれくらいしか決定打がない気がしたが……
あの時、街へ出た時は、憧れがあった。今はもうその憧れも消え失せて思い出せないけれど、当時には憧れがあった。
あと、街は眠らない。つまりは、誰かしら人がいた。コンビニに行けば、飲食店へ行けば、どこかにいけば人と関われた。人との関わりが薄れてきた今、街へでればリアルに人と接することができた。
危険だとわかっていても、憧れとふれあいを求めて、私のような田舎者はまた一人、街へと繰り出す人がいるのであろう。
【街へ】
小さい頃、親に「あなたは優しいね」と言われながら育った。
例えば、小さいお友達におもちゃを貸してあげたり。
例えば、おじいちゃんの肩を揉んであげたり。
例えば、率先してお手伝いをしたら。
大人になってからも、そういうことをしてきたはずなのに、いつからか「あなたは甘やかしすぎだよ」と言われるようになった。
例えば、仕事が手こずっているようだから手伝ってあげたり。
例えば、誰かにご飯などをおごってみたり。
例えば、車を持っているから知人の送迎をしてみたり。
自分からしたら思いやりの一環だったのに、周りからは都合のいい人にしかみられていないらしい。
優しさって、一体、どこからどこまでなのだろう。
【優しさ】
今日も残業、ようやく会社から解放され、もう日を跨ごうとしている。
車のエンジンをかけると、ラジオが流れてきた。
『時刻は深夜0時をまわりました。ミッドナイトラジオのお時間です』
懐かしい、と、俺はラジオに耳を傾ける。
学生時代、夜食のカップラーメンをすすりながら、よくこのラジオ番組を聞いていた。
今はやりの声優のラジオとかではなく、地元密着ラジオとかでもなく、ただ懐かしの歌謡曲や今話題の曲をなんとなく流しているような、そんな番組。
これといった目玉もないのに、まだこのラジオ番組は続いていたのかと驚いた。
ただ何曲か音楽が流れるだけだったので、夜食のあとに続きの勉強をしたりしたっけ。聴きながら寝ていたこともあったな。
あれから十年以上経ち、今じゃ仕事帰りに聞くラジオになってしまったのか、と、時の流れを感じた。
さすがに聞きながら寝るわけにも行かない、俺はミッドナイトラジオを聞きながら、ハンドルを握り、帰路へとついた。
学生時代とは違うミッドナイトを感じながら。
【ミッドナイト】
入籍をした。その時は、これで別れることは容易ではなくなるので、すごく安心した。
彼氏彼女の関係だった時は、いつ別れを告げられるのか、とか、浮気されたらどうしよう、とか、毎日毎日不安で仕方がなかった。
私自身がやましいことをしているわけではないのに、不安だった。
入籍して、家族になったことで、浮気をしたら世間的にも立場がなくなるし、もう別れよう、と突発的に別れることはなくなる。
すごく安心した、はずだった。
でも、世の中を見れば、不倫をしている人もいる訳だし、裏でこそこそと離婚の準備をしている人もいるらしいし。
……あれ?
唐突に、安心が不安になった。
おかしいな、とっても嬉しいはずなのに、とっても怖い。
これが籍を入れるということなのだろうか。
【安心と不安】