喜村

Open App

 沈んでいく太陽、だんだんと暗くなっていく空、キラキラと輝く海……そこに逆光で表情は見えないけれど、確かにそこにいる被写体の彼女。
 俺はひとしきりシャッターを切り満足すると、彼女は海辺からパタパタと砂浜の方に戻ってきた。
「いい写真撮れたー?」
 彼女は笑顔で俺の横につく。俺は一つ頷いた。
「ならよかったー、ベスポジだと思ったんだよ、あそこ」
 彼女はそう言うと、また波打ち際へと歩を進める。
すると、裸足のまま、砂に何かを書き始める。
「……なに書いてるの?」
 俺が問うと彼女は書きながら口を開く。
「あーい、える、おー、ぶーい、いー……」
 書いている文字を口に出す彼女、しかし
「あ!」
 書きかけだった文字が、ザーっと波で消されていく。彼女は、あーあ、と残念そうである。
「あとちょっとだったのにー」
 彼女は文字を消した波を蹴ってやる。飛沫が遠きに飛ぶ。
しかし俺は、書いていた文章を頭で整理すると、顔が暑くなった。
 残念そうな彼女の表情もまた、すごく可愛い。ほんと、自慢の彼女だ。
「俺もI Love……」
「ん? なに?」
「……なんでもない、さ、帰ろ」
 空はすっかり暗くなり、肌寒くなりつつあった。
俺も波打ち際へと向かい、彼女の手を繋いで、砂浜へと導いた。


【I LOVE…】
※【逆光】の続き

1/29/2023, 1:22:24 PM