今日はなんだか特別な夜だなー。
あ、今、変なこと考えたでしょ?
違うよー。今日は久々に家族や親戚の顔を見れたなーって思って。
ほぼ一家離散状態だったのに、年の離れて上京していった兄さんや、まだ幼い弟、お母さんはパート掛け持ちでほぼ家にいないし、お父さんも単身赴任で家にいない。
そんな家族なのに、今全員、私の方をみている。
年の近いいとこたちや、家が近い親戚のおじさんおばさんまでいる。
みんなこんなにうちに集まってどうしたの?
今日は何かお祭りでもあったっけ?
そう思っていたら、かわるがわる一人ずつ私の顔を覗いていく。中には涙を流す者もいた。
なんだか皆に見つめられちゃって恥ずかしいな。
あんなにちょっと前まで重苦しいメンタルだったのに、今はとっても心が軽い。ほら、頬がほころんじゃう。
なんだかとてもいい香りがする、お線香のような。
なんだかずっと明るい、ろうそくの明かりかな。
私だけがいい気持ちなのに、家族親戚一同はまるでお通夜みたい。
今日は、とっても特別な夜だと思うんだけどなー。
【特別な夜】
※【夢を見てたい】の続き
流されて、眠っていた。
前までは波にもまれて、流されて、浮いたり沈んだりを繰り返していたが、今は奥底に沈んで流れることはあっても、浮かぶことはなくなった。
いつか誰かに届くようにと、海に放り投げ出された僕。
でも、誰に見つかることもなく、ただ静かに海の底にいる今。
たまに魚につつかれることはあれど、未だに人の手には届いていない。
中に入っている手紙は、まだ解読できるものであろうか。
なんの音も聞こえない。もう光も届かない程、海の底の底まで落ちていった。
魚と共に網にひっかかってあがることもないであろう奥底まで沈んでしまったらしい。
放り投げ出した者もきっともう存在していないかもしれない。
でも僕は存在し続けている。役割はもうわからないけれど、海の底で僕はもうしばらく眠っていよう。
【海の底】
好きな人ができた。
まだ実際には会ったことがない。
写真も見たことはない。
声も聞いたことはない。
名前もハンドルネームしかしらない。
住んでる地域や年齢は教えてもらったけれど、身分証明書で確認した訳ではないので定かではない。
好きな人はネットの人。
いつも辛いときに、大丈夫?、と、声をかけてくれる。ダイレクトメールもくれる、優しい人。
依存しすぎて、その人が違う人と絡んでいると嫉妬してしまう。これって、好きだから嫉妬しちゃってるんだよね。
会いたいな。君に会いたくて仕方がない。
ネットのつながりから、一つ上の段階にいけるから。
そうしたら、ネットの中の特別な存在、って思われると思う。
会いたすぎて辛い。
文面だけじゃなくて、オフ会という形でも最初はいいから。
《私に会ってくれませんか?》
そう、メッセージを飛ばした。
【君に会いたくて】
姉ちゃんの遺品整理なるものの手伝いをすることになった。
いつも閉ざされていたカーテンを開け、換気をしながら姉ちゃんの部屋を片付ける。
あの日も、この窓を開け、そこから姉ちゃんは飛び降りたのか、と、若干胸が締め付けられそうになりながら。マンション20階、そりゃしんじゃうよね。
机はもう数ヶ月勉強をしていないからか、綺麗に元からなっていた。
しかし、僕は知っている。姉ちゃんの日課を。
まだ幼かった僕だったが、姉ちゃんの部屋に入ると、寝る前に書かさず姉ちゃんは日記をつけていた。
姉ちゃんは、小一の時の夏休みの宿題だった《絵日記》から習慣付いたと言っていた。
そして、その場所も僕は知っている。机の引き出し、上から二番目。
ガラリと開けると、小学生の時から亡くなる年のものまで並べてあった。
見てはいけないのかもしれないが、遺族として原因があるかもしれない、と、僕は日記を開いた。
いじめが始まったであろう年の日記から、日記帳に鍵がついていた。その鍵は--パッと辺りや引き出しを開けるが見当たらない。
まぁ、片付けをしている間にでもでてくるだろう。
小学生の頃、ほんの二、三年前の日記は、とても綺麗な字で、明るい内容のものばかりだった。
こんなこともあったな、そんなこともあったっけ、と、家族の内容が書いているものは僕まで口の端が緩んだ。
『明日から中学生! 授業が増えたり部活を始めたり、今から楽しみだなぁ♪』
僕らが読める日記はここまでだった。
この先、姉ちゃんにどんなことが起きたんだろう。
僕は閉ざされた日記が気になって、遺品整理という名の日記帳の鍵探しに奮闘した。
【閉ざされた日記】
※【どうして】の続きです。
どうして君は、そんなに強くボクを揺らすんだい?
ボクは悪いことは何もしていないのに、ボクの身ぐるみを剥がしていく。
《寒いよ! やめてよ!》
必死に叫んでも、嘲笑うかのようにボクを揺さぶる。
揺さぶられる度に、一枚また一枚とボクの着ているものを脱がしていく。
そしてついに、着ているものがなくなった。
辺りには、ボクの着ていたものが散らばっている。全てではなく、何枚かは吹き飛ばされているようだ。
ボクの身ぐるみを全て剥いでいったものの名は--木枯らし。
ボクはなす術なく、木枯らしにいじめられ、たくさん蓄えていた木の葉を全て枯らしてしまった。
【木枯らし】