喜村

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12/17/2022, 12:56:18 PM

 今日は不思議なことがあったのよ。
ノドカが、あなたに向かってボールを転がしていたんだって。
「みててねー」って、誰に向かって言ってるのかと思ったら、パパ、だってさ。
もしかしたら、本当に近くにいたのかしら? 側で見守っててくれたの?
 だとしたら、ノドカだけじゃなくて、私の所にも顔を出しなさいよ。
……それとも、私のところに来たら、私が悲しくなるから来てくれないのかしら?

 そろそろクリスマスね、ノドカへのプレゼントは何にする?
 本人にプレゼント聞いたけど、ボボちゃん人形って即答されちゃった。
パパ、とか言われたらどうしようかと思ったけど、全然そんな心配はなかったみたいね。
……じゃぁ、私の方がサンタさんにあなたをお願いしようかしら?……なんてね。

 やっぱりダメな母親だよね、母親として頑張ろうとしてるのに、あなたのことがよぎっちゃう。
 ノドカの成長をあなたと見ていたかったのに、今日こんなことあったんだよ、って、ここで報告するみたいで、なんか業務みたいで嫌だな。

 だめだめ、とりとめのない話になっちゃう。
もうすぐあなたがいなくなって初めての年末年始、きちんとあなたの実家にも新年の挨拶に行くわね。
 今でもお嫁さんとして、ちゃんとしてますよ。


【とりとめのない話】

「落ちていく」「また会いましょう」の続編です

12/16/2022, 11:54:37 AM

【風邪】

 朝晩は冷え込み、昼間との温度差が10度以上ある日が連日続いていた。
「ぶえっくしょ!!」
 俺は盛大にくしゃみをする。時節柄、マスクは常時着用しているため、あまり飛沫は飛んでいないはずだが……
「ちょっと兄ちゃん、風邪? うつさないでよー」
 妹があからさまに嫌そうな顔をする。
俺はズズッと鼻をすする。
「あらやだ、本当に風邪? この間薬使いきっちゃってないのよ、ちょうどいいわ、薬局で適当に薬買ってきて」
 母が何食わぬ顔で二千円を差し出してきた。
……え?

 日が暮れるのも早くなり、夏場だと明るい18時でも、ずいぶんと暗かった。ちゃっかりパシりにされた俺である。
 薬局はそんな中、煌々と明かりがついていた。
店内は外と比べて暖かい。
よくわからないが、薬売場をうろついてみる。
「何かお探しですか?」
 ぼーっと眺めていると、いきなり声をかけられた。
白衣に身を包み、店員であることはすぐにわかった。
いや、それよりも……
(かっ、可愛い!!)
 めちゃくちゃ可愛い、小柄で清潔感のある黒髪、目も大きく奇抜すぎないメイク。これが本当に大人なのだろうかと疑う程のかわいさである。
「風邪ですか?」
 あまりの可愛さに見とれてしまい、次の言葉で我に返った。
「あ、その……熱はなさそうなんですが、くしゃみと鼻水がダラダラと出てきて……」
「最近寒暖差が激しいので、寒暖差アレルギーの方が増えてるんですよー、お客様もそれと同じようなので、まずは免疫力をつけて下さい」
 親切丁寧に説明されるも、やはり終始上の空の俺。
 風邪をひかなければ、この人にもであえなかったし、たまにひく分には、風邪、いいなぁ……

12/15/2022, 1:55:10 PM

 僕は、冬というものを経験したことがない。
冬の時期は土の中にもぐっていたから。
 今は夏、そして、ようやく今日初めて、土の中以外の世界を見た。
眩しくて暑くて、目がチカチカしそうになっちゃう。
 興奮のあまり、僕はジージーと鳴き声をあげた。
 すると、近くにいた鳥達の声が聞こえてきたんだ。

「暑いね~」
「こんな暑い中、セミの声なんて聞いてたら、余計に頭痛くなっちゃうよ」
「わかる~早く冬にならないかな~」
 鳥達が僕の悪口を言ってるようだが、お構い無しで僕は鳴く。
「冬は冬で寒いけどね」
「でも、シーンってしてて夏と真逆じゃない?」
「確かに、雪が降ると尚更だよね、人も出歩かなくなるしさ」

 鳥達の言っている、冬、は、なんとなく経験自体はしてるからわかるけど、雪、って、なんだろう?
 鳴きながら鳥達の会話を聞き取ろうとしたが、
「もー、うるさくてたまらない!」
「場所移そう」
と、飛び立ってしまった。

 雪、って冬にしか降らないものなのかな?
 僕は、外に出ると短命らしいんだけど、雪、みれるかな?
 大声を出しながら、僕は雪というものを待つことにした。

【雪を待つ】

12/14/2022, 11:28:12 AM

 作られた光を見て、何が楽しいのだろう。
 寒空の下、クリスマスが近づいて来たからか、やたらとカップルが肩を寄せあい歩いている風景が目につく。
 俺には彼女というものがいないので、こういった行事には無縁である。
 人工的な光を見て、感動しているカップル達。何がそんなに良いのだろうか。
 そう思うなら道を変えろと思われそうだが、あいにく俺も好き好んでこの道を通っている訳ではない。

ここが帰り道……というより、俺の家なのだ。

 イルミネーションといえば、街中と思われがちだが、ここはど田舎、街頭だけでもイルミネーション化しているくらいの、ど田舎である。
 しかし、そのど田舎の中に、煌々と光輝き、たくさんの色が移ろい点滅する。でかい樹木と家の壁面に大量の電球を添えて。
いわば、ここにしか、イルミネーションというイルミネーションがなく、カップルが人の家の前にたむろっているのである。
 親はそれが毎年の楽しみらしいので、何も言えないが、毎年若干気が滅入るのであった。
「入りにくいなぁ……」
 俺はぼそっと呟いた。



【イルミネーション】

12/13/2022, 12:46:32 PM

 私の大好きなお人形。
たくさんの愛を注いできたの。
私の匂いに私の色に染まっていって。
そしていつしか壊れてしまう。

 どうして? こんなに愛していたのに。
どうして壊れてしまうの?

 何度も継ぎ接ぎして、ほつれそうなところを治して。
元通りになったかと思ったら、また別な所が壊れかけていく。

 毎日連絡を取り合って、毎日愛してるって言ってあげて。
言葉だけじゃわからないと思って、毎日苦手な家事をして、一緒に身体を重ね合わせたり、態度でだって愛を伝えていたはずなのに。

 重い。
 そう言い残して、私の大好きなお人形は消えてしまいそうになった。

 おかしいなぁ、毎日溢れんばかりの愛を注いでいたのに。
 そんな自分勝手なお人形は、私が最後まで愛でてあげる。

「別れる前に、もう一度会いたい」

 私の大好きなお人形は、それを承諾し、最後に一度だけ会ってくれると言った。
 一度だけで良いよ、だって最期の愛を注いであげたいだけだから。


【愛を注いで】

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