今日は不思議なことがあったのよ。
ノドカが、あなたに向かってボールを転がしていたんだって。
「みててねー」って、誰に向かって言ってるのかと思ったら、パパ、だってさ。
もしかしたら、本当に近くにいたのかしら? 側で見守っててくれたの?
だとしたら、ノドカだけじゃなくて、私の所にも顔を出しなさいよ。
……それとも、私のところに来たら、私が悲しくなるから来てくれないのかしら?
そろそろクリスマスね、ノドカへのプレゼントは何にする?
本人にプレゼント聞いたけど、ボボちゃん人形って即答されちゃった。
パパ、とか言われたらどうしようかと思ったけど、全然そんな心配はなかったみたいね。
……じゃぁ、私の方がサンタさんにあなたをお願いしようかしら?……なんてね。
やっぱりダメな母親だよね、母親として頑張ろうとしてるのに、あなたのことがよぎっちゃう。
ノドカの成長をあなたと見ていたかったのに、今日こんなことあったんだよ、って、ここで報告するみたいで、なんか業務みたいで嫌だな。
だめだめ、とりとめのない話になっちゃう。
もうすぐあなたがいなくなって初めての年末年始、きちんとあなたの実家にも新年の挨拶に行くわね。
今でもお嫁さんとして、ちゃんとしてますよ。
【とりとめのない話】
「落ちていく」「また会いましょう」の続編です
【風邪】
朝晩は冷え込み、昼間との温度差が10度以上ある日が連日続いていた。
「ぶえっくしょ!!」
俺は盛大にくしゃみをする。時節柄、マスクは常時着用しているため、あまり飛沫は飛んでいないはずだが……
「ちょっと兄ちゃん、風邪? うつさないでよー」
妹があからさまに嫌そうな顔をする。
俺はズズッと鼻をすする。
「あらやだ、本当に風邪? この間薬使いきっちゃってないのよ、ちょうどいいわ、薬局で適当に薬買ってきて」
母が何食わぬ顔で二千円を差し出してきた。
……え?
日が暮れるのも早くなり、夏場だと明るい18時でも、ずいぶんと暗かった。ちゃっかりパシりにされた俺である。
薬局はそんな中、煌々と明かりがついていた。
店内は外と比べて暖かい。
よくわからないが、薬売場をうろついてみる。
「何かお探しですか?」
ぼーっと眺めていると、いきなり声をかけられた。
白衣に身を包み、店員であることはすぐにわかった。
いや、それよりも……
(かっ、可愛い!!)
めちゃくちゃ可愛い、小柄で清潔感のある黒髪、目も大きく奇抜すぎないメイク。これが本当に大人なのだろうかと疑う程のかわいさである。
「風邪ですか?」
あまりの可愛さに見とれてしまい、次の言葉で我に返った。
「あ、その……熱はなさそうなんですが、くしゃみと鼻水がダラダラと出てきて……」
「最近寒暖差が激しいので、寒暖差アレルギーの方が増えてるんですよー、お客様もそれと同じようなので、まずは免疫力をつけて下さい」
親切丁寧に説明されるも、やはり終始上の空の俺。
風邪をひかなければ、この人にもであえなかったし、たまにひく分には、風邪、いいなぁ……
僕は、冬というものを経験したことがない。
冬の時期は土の中にもぐっていたから。
今は夏、そして、ようやく今日初めて、土の中以外の世界を見た。
眩しくて暑くて、目がチカチカしそうになっちゃう。
興奮のあまり、僕はジージーと鳴き声をあげた。
すると、近くにいた鳥達の声が聞こえてきたんだ。
「暑いね~」
「こんな暑い中、セミの声なんて聞いてたら、余計に頭痛くなっちゃうよ」
「わかる~早く冬にならないかな~」
鳥達が僕の悪口を言ってるようだが、お構い無しで僕は鳴く。
「冬は冬で寒いけどね」
「でも、シーンってしてて夏と真逆じゃない?」
「確かに、雪が降ると尚更だよね、人も出歩かなくなるしさ」
鳥達の言っている、冬、は、なんとなく経験自体はしてるからわかるけど、雪、って、なんだろう?
鳴きながら鳥達の会話を聞き取ろうとしたが、
「もー、うるさくてたまらない!」
「場所移そう」
と、飛び立ってしまった。
雪、って冬にしか降らないものなのかな?
僕は、外に出ると短命らしいんだけど、雪、みれるかな?
大声を出しながら、僕は雪というものを待つことにした。
【雪を待つ】
作られた光を見て、何が楽しいのだろう。
寒空の下、クリスマスが近づいて来たからか、やたらとカップルが肩を寄せあい歩いている風景が目につく。
俺には彼女というものがいないので、こういった行事には無縁である。
人工的な光を見て、感動しているカップル達。何がそんなに良いのだろうか。
そう思うなら道を変えろと思われそうだが、あいにく俺も好き好んでこの道を通っている訳ではない。
ここが帰り道……というより、俺の家なのだ。
イルミネーションといえば、街中と思われがちだが、ここはど田舎、街頭だけでもイルミネーション化しているくらいの、ど田舎である。
しかし、そのど田舎の中に、煌々と光輝き、たくさんの色が移ろい点滅する。でかい樹木と家の壁面に大量の電球を添えて。
いわば、ここにしか、イルミネーションというイルミネーションがなく、カップルが人の家の前にたむろっているのである。
親はそれが毎年の楽しみらしいので、何も言えないが、毎年若干気が滅入るのであった。
「入りにくいなぁ……」
俺はぼそっと呟いた。
【イルミネーション】
私の大好きなお人形。
たくさんの愛を注いできたの。
私の匂いに私の色に染まっていって。
そしていつしか壊れてしまう。
どうして? こんなに愛していたのに。
どうして壊れてしまうの?
何度も継ぎ接ぎして、ほつれそうなところを治して。
元通りになったかと思ったら、また別な所が壊れかけていく。
毎日連絡を取り合って、毎日愛してるって言ってあげて。
言葉だけじゃわからないと思って、毎日苦手な家事をして、一緒に身体を重ね合わせたり、態度でだって愛を伝えていたはずなのに。
重い。
そう言い残して、私の大好きなお人形は消えてしまいそうになった。
おかしいなぁ、毎日溢れんばかりの愛を注いでいたのに。
そんな自分勝手なお人形は、私が最後まで愛でてあげる。
「別れる前に、もう一度会いたい」
私の大好きなお人形は、それを承諾し、最後に一度だけ会ってくれると言った。
一度だけで良いよ、だって最期の愛を注いであげたいだけだから。
【愛を注いで】