喜村

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12/10/2022, 1:12:28 PM

 友達何人できるかな?、は聞く言葉だけど、仲間は?、と聞くことはない。
 仲間って、一体なんなのだろう。友達とは違うのだろうか。
「鈴木さん、話聞いてますか?」
 ぼんやりとそんなことを考えていたら、メガネをかけた上司に名指しされた。
「あ! え……す、すみません……」
「全く……今回のプロジェクトはチームですので、きちんと聞いておくように」
 チーム……友達を英語でいえばフレンドのように、仲間を英語でいえばチーム、とでも言うのだろうか。
だとしたら、私はこんな小言を言う人の仲間なのだろうか。
「すみません……」
「謝らなくていいので、良い案を出してください」
「はい……」
 そういえば、学生時代も隣の席の女の子に、ごめんねじゃなくて、とか言われたな。
私は無意識に謝り癖がついていたみたいだ。
 学生時代は、高校時代の友達は一生もの、とか言われたけど、社会人では仲間が大切なものなのだろうか、と、長々と演説をしている上司を見ながら考えてみるのであった。


【仲間】

12/9/2022, 11:49:11 AM


 今日はなんだか、一段と帰り道が冷えて感じた。12月に入って一週間。日本ではところどころで雪も降り始める季節になった。
 制服を身にまとっている一組のカップルは、この寒い日にも関わらず、微妙な距離感を保っていた。
(手、繋ぎたいなぁ……)
 男の子の方が一歩前を歩き、後ろで女の子はそうぼんやりと思っていた。
吐く息が白く宙を舞う。
「そんなにため息ついて、なんだよ」
 男の子は、後方を見ずに問いかける。
「さっきから後ろで、はー、ってため息ついてるだろ」
 怪訝そうな口振りの男の子。しかし女の子は、すぐさま、違う!、と否定する。
「ため息じゃなくて、寒いから、息をはーって手にやってただけ!」
「……そうなの?」
「こっち見てくれないからわかんないんだよ!」
 今度は女の子の方が、泣きそうな声で訴えた。
その声に思わず、男の子は振り返る。
「やっと、こっち見てくれた……」
 女の子は歩みを止めて、男の子を見つめる。男の子もそれにならう。
「私達、付き合って一週間だよね? なのに、どうしてこんなに素っ気ないの?」
 違う!、と、今度は男の子が否定した。
「素っ気ないんじゃなくて、その……恥ずかしい……恥ずかしくて、顔が見れないだけ……」
 最後の方はゴニョゴニョと男の子は言った。
「……そうなの?」
「不安にさせてごめん」
 女の子ははにかんだ。
男の子も女の子も、頬が赤いのは寒いからなのか照れているのかは、本人達にしかわからない。
「じゃあ、仲直り、しよ?」女の子は男の子に手を差しのべる「手を繋いで?」
 今にも雪が降りだしそうな空から、温かな太陽が顔を覗かせ、二人の様子を見守っていた。



【手を繋いで】

12/8/2022, 2:27:28 PM

 隣の席の鈴木さん。とっても可愛くて、女の私でも見惚れてしまう。
「鈴木さん、さっき先生が呼んでたよ」
 私が彼女にそう声をかけると、くりくりの丸くて大きな瞳に私が映る。
「ほんと!? ごめんね!」
 こういう時は、ごめんね、ではないと思う。いや、しかし、手間をかけさせてごめんね、の意味があるのだろうか。
そんな事を考えていると、鈴木さんは先生に会いに行こうと立ち上がった。
立ち上がったと同時に、机の角においていた筆箱が机から滑り落ち、盛大に床へと散らばる。
「わー!? ごめんねー!」
 こういう時の、ごめんね、は理解できる。
だがやはり、私も一緒にペンや消しゴムなどを拾って渡してあげると、
「ほんとごめんね~!」
 この、ごめんね、も最初の、手間をかけさせてごめんね、なのか。だとしても……私は意を決して口を開く。
「鈴木さんってさ、ごめんね、が口癖なの?」
 いきなりの私の問いに、え?、と真顔でこちらを見つめる鈴木さん。
「こういう時は、感謝なんだから、ごめんね、じゃなくて、ありがとう、だよ」
 理解したかのように、鈴木さんも、あぁ!、と続ける。
「そうだよね! ありがとう、ごめんね」
 しばしの間があった。
だが、ほぼ同時に次の瞬間、二人で吹き出す。
これが、初めて可愛いと高嶺の花の存在だった鈴木さんとのまともな会話。
 教室では、始業を知らせるチャイムが鳴った。


【ありがとう、ごめんね】

12/7/2022, 1:31:36 PM

 窓から差し込む光でホコリがキラキラと舞っているのが見える。まるで、ミラーボールだ。
そのミラーボールに照らされて、声も出せない私は、あなたを見つめていた。
 窓際の特等席。10年くらい前までは、毎日、いってきますとただいまを口にして部屋を後にしていたのに、ここ何年とその挨拶は聞こえなくなった。
 昔だったら、元気よく外へと出掛けていたのに、今では機嫌悪く扉を叩きつけてでかけるか、ため息をついて扉を開けるか。

 君は成長して、私の存在を忘れてしまったのかもしれないけれど、私は昔の元気で明るい姿を覚えているよ。
 特等席はもらっているけれど、こんなホコリまみれの部屋の片隅で。
前まではここにホコリなんてなかったんだけれども、もう掃除なんてずっとしてないものね。

 私を思い出して、とは言わないよ。
ただ、また昔のあなたに戻ってほしいな。

【部屋の片隅で】

12/6/2022, 10:36:57 AM

 静かに水面が風で揺れる。そこに映っているのは、惨めな姿の私。
こんな姿見たくもない。
 私は水面に向かって、小さな石を投げつけてやる。ぽしゃんと叩いて姿が波打った。
悲しげな姿が歪んで、なんだか笑っているかのようだ。

 そっちの世界の私は、笑顔なのかい? こっちの世界の私はずいぶんと酷い顔をしているよ。
 あぁ、このままここに飛び込めば、私もこことは逆の世界に行けるかい?
 問いかけても声はせず。しかし、逆さまの私の口は、おいで、と揺れ動いたように見えた。

 私に迷いはなかった。
今からそっちの世界に行くよ。
 風に揺れるでもなく、小石が叩きつけられたでもなく、鈍い音と同時に大きな波紋がそこにはあった。
 逆さまに、深く深く落ちていく。
そこにはそっちの私はいなかったけれども、こっちの私はそっちの私に取り込まれて、心は軽くなって、心なしか笑顔に変わっていった気がした。


【逆さま】

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