喜村

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 静かに水面が風で揺れる。そこに映っているのは、惨めな姿の私。
こんな姿見たくもない。
 私は水面に向かって、小さな石を投げつけてやる。ぽしゃんと叩いて姿が波打った。
悲しげな姿が歪んで、なんだか笑っているかのようだ。

 そっちの世界の私は、笑顔なのかい? こっちの世界の私はずいぶんと酷い顔をしているよ。
 あぁ、このままここに飛び込めば、私もこことは逆の世界に行けるかい?
 問いかけても声はせず。しかし、逆さまの私の口は、おいで、と揺れ動いたように見えた。

 私に迷いはなかった。
今からそっちの世界に行くよ。
 風に揺れるでもなく、小石が叩きつけられたでもなく、鈍い音と同時に大きな波紋がそこにはあった。
 逆さまに、深く深く落ちていく。
そこにはそっちの私はいなかったけれども、こっちの私はそっちの私に取り込まれて、心は軽くなって、心なしか笑顔に変わっていった気がした。


【逆さま】

12/6/2022, 10:36:57 AM