私の主は、創作家である。
特に、恋愛小説を書いている。
私は、今、主の書いている小説のヒロイン。
ただ、ここ1ヶ月程更新がない。
スランプなのかな?
現在、主人公の男の子と喧嘩をしてしまい、お互い好きだけどすれ違っている最中。
早くあの子に謝りたいのに! そして、あの子と付き合いたいのに! 主は一体、何を戸惑っているの!?
教室の窓際の席で、ぼんやりとあの子の事を思い続けながら早1ヶ月……。
「もうこの体勢飽きたね……」
教室の黒板を穴があくくらい見つめている、隣の席の女の子が、口だけ開いた。
「あなたもずっと空ばっかりみてて、首疲れるでしょ?」
「作品が更新されないとずっとこのままだから……仕方ないよ……」
そして、この恋も、このまま進展しない。
「知ってる? うちらの主の作者、今別の執筆始めて、そっちに集中してるらしいよ?」
「え?」
私は頭を動かさず、信じられない、と言ったように声を出した。
「このままうちらの設定忘れて、うちらのこと忘れちゃうかもね」
私の頭の中が真っ白になった。何も言えない。
それじゃあ、この私の恋は喧嘩をして終了? 何もなかったことになるの? 私、この作品のヒロインだよね?
嫌だ、終わらせないで。
お願い、主! 私達のことを作ったのは主だよね?
ちゃんと最後まで描いて! こんなところで終わらせないで!
未完の私達のことを! 作品であなたの帰りを待っている登場人物のことを! 忘れないで!
【終わらせないで】
あなたは私をよく撫でてくれた。
たまに鬱陶しくて、それを私は避けていた。
飼い主とかならいいけど、私は野良。優しくされる筋合いはない。
でも、あなたがよくもってくる、あの◯~る、あれはずるい。あれがほしくて、私も私であなたの元へとよってしまう。
私があれを食べている隙をついて、私のあちこちを撫で回す。
いや、ゆっくり落ち着いて食べさせて下さいよ。
ふふふ、と、あなたは笑った。
愛おしそうに、何やら機械でぱしゃぱしゃと私を撮っていた。
子猫ならまだしも、この世に生を受けて5年以上の私をそんなに撮影して、何が面白いのだろう。
またくるね、とあなたは言った。
また◯~るをよろしくね、と手を振るあなたに向かって私はないた。
次の日は来なかった。また次の日もこなかった。気付けば一週間ほど来ず、吐く息が白くなるくらい冷え込む季節になっていた。
野良人生もそこそこ経験しているので、食べ物に不自由はしていないのだが……
寒い。
季節柄も寒いのだが、何故だろう、一人になれているのに、心も寒い……?
「ごめんねー! テスト期間中で来れなかったー!」
忘れた頃に、あなたはパタパタと駆けてきた。
「寒くなってきたから毛布持ってきたんだ~、木の側において置くね! ここが君のポジションだよね?」
お、おう、よく分かっているじゃないか。
そうそう、その久々の◯~るも待ってました。
私はあなたにすり寄る。
「かわい~!」
一人でも生きていけると思った。
でも、あなたから貰える、エサも毛布もないと寂しいと気付いた。
いや、モノだけではなく、その撫でくり回す手からは、温かなモノを感じていた。これが、愛情、なのだろうか?
私は、にゃあとないた。
【愛情】
朝からセミが騒がしくないている。
その音が自然のアラーム音として、目が覚めてしまった。
(あぢぃ……)
セミのなき声の次に感じたのは暑さ。
本日、8月30日。
最早9月になろうというのに、この暑さはなんだ。
クーラーのおはようタイマーは早朝6時にセットしていたにも関わらず、それより先に起きてしまったようだ。
エアコンの機械音はまだしていない。
まずはエアコンのスイッチを次にテレビのスイッチをつける。
『本日の関東の最高気温は42度となるでしょう』
テレビからそんな声が聞こえた。一昔前ならば、驚きの気温だろうが、今はこれがふつうである。
中々夜にも気温は下がらず、そのまま翌朝へとうつるパターン。
エアコンの現在の温度を見ると、37度。
「微熱かよ、体温じゃん……」
寝起きのがらがら声で、本日の第一声を自分は出した。
それよりセミのこえの方が、何倍も元気であった。
【微熱】
【太陽の下で】
太陽さんへ。
僕は、いつでも君の方を見ている。
さんさんと降り注ぐその光は、とても眩しくて、めまいさえしてしまうくらい。
でも、目をそらそうとしてもできないんだ。それが僕の習性だから。
君が動くと、僕もそちらに顔をむける。
からだ自体は深く根をはっているので、顔だけ君をおいかける。
ストーカー? いいや、僕は君からエネルギーをもらっている、いちファンです。
たまに、あまりの君の強さに喉が渇いてしにそうになる。でも、両手を広げて、君の力強さをうけとめるんだ。
太陽の下、それが僕の定位置。
また来年、夏になったらお会いしましょう。
ひまわりより。
【セーター】
洗えば洗うほど、小さく縮んでしまうものって、なーんだ?
え? セーター?
はずれー、正解は、あなたの心。
世間の荒波に揉まれれば揉まれるほど、
綺麗に洗おうとすればするほど、
独立して個性のあった感情という繊維が、
ぎゅーっと、ひとまとまりに縮こまっちゃうの。
そうか、セーターもそうだね!
あなたはセーターに似てるかもね!
デリケートなのに、寒くて冷たい社会に放り出されて、主という上司を温めなくちゃいけない。
セーターみたいだね?