よく、子どもは宝物だ、なんて言うけど、僕はそうと思わない。
キラキラしたものが宝物かと問われれば、それも僕は賛同しかねる。
高価なものなら価値のあるもの? それもなんだか違う気がする。
それじゃあ、僕の宝物はなんなのか。
平和に生きていられる事が、そうなのかな、という考えに落ち着く。
僕はちょっと昔に、子どもができるはずだった。でも、パートナーの都合で、その所謂「宝物」を見ることはできなかったし、悲しくもなかった。
生まれて初めて、婚約指輪というキラキラしたものをもらったけど、別にそれも「宝物」とは言えなくて。
君のほしいものを何でも買ってあげる、と、マンションや車などの高価なものを貢いでもらっても「宝物」だとは思わなかった。
今、無機質の天井を動けぬ身体でぼんやり見つめて思うんだ。
自由に動けて、普通に喋れて、平和にすごせる日常が、ありきたりながら、「かけがえのない宝物」なのだ、と。
【宝物】
暗い夜に道しるべのように、寒い冬に一時の温もりを。
ある人は色をつけた。
またある人は香りをつけた。
色々とまざりあって、一番「ゆらいでいる」のは私だと気付く。
元の自分ってなんだったっけ。
人に光を示して、人に温かさを与えていた自分はどこにいったっけ。
自分で自分を見つめなおす。
そんな私の「ゆらぎ」で、人はまた癒されているらしい。
【キャンドル】
今まで何十年と生きてきて、こんなこともあった、これは忘れられない思い出になる、なんて、思い返せることが昔はあった。
ただ、高齢者の部類になった今、身近な人に、昔もこんなことしたよね、と、言われてみても、全く思い出せないことが増えてきた。
おかしいな、初めて君に会った日も、初めて君の家に行った時も、初めて子どもが生まれた日も、自分の親がなくなった日も、ほんの前なら思い出せたはずなのに。
そもそも、今このベッドで横たわっている「君」は誰だったっけ?
確か、「君」と数えきれない思い出を作った気がする。
でも……
「お前さんや、大切な人なのは思い出せるんだけど、誰だったかの?」
ベッドで横たわっている君は、なんの返事も返してはくれなかった。
【たくさんの思い出】
「ひろくん、体験入学何時に行くー?」
おかっぱ姿の女の子は、隣の席の男の子·ひろくんに声をかける。
小学六年生、中学校も公立が一つしかない田舎の小学生である。
「いや、俺は……」
ひろくんの歯切れが悪い。
「おーい、お前知らないのかよ」
二人の間を後ろの席の子が割って入る。
「ひろは都会の私立に通うんだぞ」
おかっぱ姿の女の子は、信じられない、といったように固まった。
「ひろの家は兄弟みんな私立に行ってるじゃん、ひろもそうなんだよ」
「そっ、か……」
「ひろもひろだぜ、初カノに教えないなんて~」
女の子もひろくんも、何も言わず、情報提供をした後ろの席の子は離れて行った。
「でも、中学校が違っても、休みの日とかあえるよね?」
「うん、多分」
初めての恋にして、初めての試練。
はなればなれになっても、幼い小さな恋は続くのであった。
【はなればなれ】
まだ何もわからなくて、警戒して震えていたね。
誰かに頼らないと生きていけないのに、誰かを探して小さく、でも、力強くないていたっけ。
「こら、何ニヤついてんだ」
今じゃそんな弱々しさは感じられない、強気で俺にあたってくるくらいだ。
昔は、頼れる存在の俺にすり寄ってきたくせに、だ。
「いや~、昔の可愛らしさはどこに消えちまったのかな~って」
俺は、はっはっはっ、と笑ってやる。
君は赤面して、口を尖らせてブーブー言っている。
それでもあの時の、か細く、でも気付いてと生きるために必死だった君のことをたまに思い返すよ。
俺の可愛い子猫ちゃん。
【子猫】