11/14/2022, 11:35:20 PM
もう嫌だ、失敗したくない。
僕はいつも上手くいかない。
綺麗な色をつけることができければ、人よりだいぶ成長も遅い。
もうこのまま枯れてしまえば、消えてしまえば、どれだけ楽になるだろうか。
そんな時、優しく誰かが僕の背中を押してくれた。
大丈夫だよ、そう言ってくれているかのように。
振り返っても、そこには誰もいなかった。でも、
「遅くっても、君はきちんと成長してるじゃない」
「綺麗な色じゃなくとも、君はいろんな人を楽しませてるじゃない」
優しく何度も励ましてくれる。
「今年もまた、たくさんの人が君の綺麗な姿を待ってるよ、だから、くよくよしないで」
そう耳元で囁いてくれた。強すぎる口調でもなく、包み込むほどの語彙でもないけれど。
【秋風】
11/14/2022, 6:41:56 AM
湿度の高い夜、まだ虫の声が聞こえるには早い時期である。
去年みた時には、ようやく走り回るのが板についてきたこの子も、今年は幼稚園に行き始め、友達もできたらしい。窓際にある写真立てには、園での遠足の写真が飾られてあった。
来年になったら、次はお喋りがうまくなっているだろうか。
年に一度しかこの子に会うことはできないけれど、今年はそろそろ時間のようだ。
また来年、会いに来るよ。
触れることはできないけれど、優しくその子の頭を撫でてやる。
子は起きた。眠い目を擦りながら、むくりと重い頭を持ち上げる。
「あら、おきたのね?」
「パパいた……」
寝起きのがらがら声で、子は呟いた。
「そう、なんか言ってた?」
「また会いに来るって」
子は、ぼうっとしたまま、部屋の片隅の仏壇を見る。
蝉がせわしなく鳴き始めた。
【また会いましょう】