喜村

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 湿度の高い夜、まだ虫の声が聞こえるには早い時期である。
 去年みた時には、ようやく走り回るのが板についてきたこの子も、今年は幼稚園に行き始め、友達もできたらしい。窓際にある写真立てには、園での遠足の写真が飾られてあった。
 来年になったら、次はお喋りがうまくなっているだろうか。
 年に一度しかこの子に会うことはできないけれど、今年はそろそろ時間のようだ。
 また来年、会いに来るよ。
 触れることはできないけれど、優しくその子の頭を撫でてやる。

 子は起きた。眠い目を擦りながら、むくりと重い頭を持ち上げる。
「あら、おきたのね?」
「パパいた……」
 寝起きのがらがら声で、子は呟いた。
「そう、なんか言ってた?」
「また会いに来るって」
 子は、ぼうっとしたまま、部屋の片隅の仏壇を見る。
 蝉がせわしなく鳴き始めた。

【また会いましょう】

11/14/2022, 6:41:56 AM