喜村

Open App


「ひろくん、体験入学何時に行くー?」
 おかっぱ姿の女の子は、隣の席の男の子·ひろくんに声をかける。
 小学六年生、中学校も公立が一つしかない田舎の小学生である。
「いや、俺は……」
 ひろくんの歯切れが悪い。
「おーい、お前知らないのかよ」
 二人の間を後ろの席の子が割って入る。
「ひろは都会の私立に通うんだぞ」
 おかっぱ姿の女の子は、信じられない、といったように固まった。
「ひろの家は兄弟みんな私立に行ってるじゃん、ひろもそうなんだよ」
「そっ、か……」
「ひろもひろだぜ、初カノに教えないなんて~」
 女の子もひろくんも、何も言わず、情報提供をした後ろの席の子は離れて行った。
「でも、中学校が違っても、休みの日とかあえるよね?」
「うん、多分」
 初めての恋にして、初めての試練。
はなればなれになっても、幼い小さな恋は続くのであった。

【はなればなれ】

11/16/2022, 11:15:35 PM