NoName

Open App
3/14/2024, 9:47:25 AM

「月城君って、機械みたいだよね、感情が嘘っぽいっていうか、人間味がないっていうか」
「顔はかっこいいのにね」
「顔だけじゃだめでしょ、私無理だわー」

そんなこと言われてもどうしょうもない。本当に何も感じないのだ。たとえクラスが大爆笑に包まれても、みんなが僕のことを嫌い、陰口を言われようが心底どうでもいい。僕は感情というものを知らない。それは生まれたときからそうだった。
――――――――――――――――――――――――
赤ん坊のとき、まったく泣きもせず笑いもしない僕を、周囲は大層気味悪がった。そんな僕に唯一優しい笑みを向けてくれたのは、母だけであった。父は僕が生まれる前に離婚して、母と2人暮らしの生活だった。母が好きだとか、そんな感情はやっぱり生まれてこなかったが、僕のことを化け物のような目でみる周囲のやつに感じた鬱陶しさや不快感は感じなかった。だが、僕が10歳のとき、母は急な心臓発作を起こし、帰らぬ人となった。身近な人がいなくなれば、こんな僕でも悲しみにくれるかもしれないとそう思っていたが、やっぱり寂しさを知ることはできなかった。それからは親戚の家に引き取られ、疎ましく思われながらも、淡々と日常を過ごした。母のことは、もうあまり覚えていない。
少し昔のことを思い出していると、頭上から声が聞こえてきた。
「ここの席、座ってもいい?」
顔を上げると、そこには一人の女子生徒が立っていた。周りを見渡してみると、ほとんどの席が満席になっている。少し迷った後、
「別にいいよ」
そう言うと、彼女は少しほっとした表情になり、ありがとう、と僕の前の席に着いた。
「いやあ、油断したよ。ここっていつも空いてるから、今日はゆっくりでいいやと思ってのんびり来たのに。久しぶりの雨でいつも外で食べてる人もみんなここに集中してるなんて。」
彼女は、気づかなかったなあ、と大袈裟に頭を抱える。そして、困った表情をしたと思うと、すぐさまぱっと笑顔になってこちらに顔を近づけてきた。
「そうだ、名前名乗ってなかった。美澄萱乃(みすみかやの)、高2。」
そして、あっさりとした口調で話し出す。
「って、知ってるか。この学校で一番モテてるもんね、私。」
ふひひっと笑う。得意気そうだ。ただ僕は残念ながら彼女のことを全く知らなかった。
「申し訳ないけど、あいにく君のことを全然知らないんだ。だから自己紹介してくれて助かったよ。」
それを言うと彼女は心底不本意そうに眉を顰めた。よっぽど自分に自信があるのだろう。
「それほんとに言ってる?そんな人この学校にいるんだ。そういえば私が急に君に話しかけても全然驚きもしなかったもんね。たいていの人は顔真っ赤にするのに。」
美澄さんは物珍しそうに僕のことを見つめる。そして僕にも自己紹介を求めた。
「月城千翠(つきしろちあき)、同じく高2。さっきの続きだけど、基本的に僕はこの学校の生徒なんて一人も覚えてないから、君だけ知らなかったわけじゃないよ。だからあまり気にする必要はない。」
僕は笑顔で返す。もちろん偽りだ。子供の頃はかなり無表情だったが、今では嘘の笑顔でなんとかその場をやり過ごすことができる。
「ふーん…そうか、ぼっちくんなんだ。」
また僕をまじまじと見つめ、それからにやりと笑う。
「じゃあ、最初の友達に私はどう?」
僕はその言葉に眉を顰める。
「あのさ、僕は別に友達が欲しいわけじゃない。いたら色々面倒くさいし。僕をぼっちと言おうが孤独と言おうが勝手にすればいいけど、友達作りなら他をあたって。君ならたくさん友達ができるだろうし。」
そういうと彼女は少し驚いた表情になったが、すぐに肩をすくめて分かったとだけ返事をし、机の上に弁当を広げた。少し言い過ぎたのだろうかとも思ったが、彼女に僕の言葉を気にする素振りは一つもなく、玉子焼きをおいひいー、と頬張っていた。
子供の時から、感情がない僕には友達ができることはなかった。皆は僕をよく機械だとか氷だとか言う。どことなく近づき難いオーラを感じているのだろう。僕は僕で、道行く人も、クラスメイトも、ただの背景の一部にしか見えない。道端に雑草が生えていて、電柱があるのと一緒で、そこにあるだけにしか感じない。だから、他の人と接するのは色々面倒くさい。そんなわけで、僕に話しかけてくる人は少ないし、話しかけてきたとしても、僕の素っ気ない態度を見て諦めていく。それはいい。でも、中学に入ってからというもの、誰にも心を開かないところがかっこいいとか勝手にほざいて、僕の外面だけを見て近づいてくるやつが増えてきた。そんなやつがたくさんいれば心底面倒だ。そして、近づいてきたやつは僕の冷たい態度を憎み、また陰口を言う。怒りこそ感じないが、僕の学校生活の秩序が乱れるのはごめんだ。それからというもの、僕は感情を表に出せるよう努めた。といってももちろん偽りのだ。そして、話し方も相手ができるだけ素っ気ないと感じないよう気をつけた。最初はぎこちなく、余計に陰口が増えて迷惑だったけど、今となっては様になり、高校生活はうまくいってる。とはいえ一人でいたいのは変わらず、笑顔ですべて断ることにした。これで僕は、周りから見たら孤独な人に見られるかもしれないけど、平和な暮らしを確保することができた。あとは自由の身だ。
「月城君ってかっこ良くない?」
「ビジュやばいよね。」
「ねえ!それであの塩対応も合わせてかっこいい!」
「誰も手を出せない一匹狼の感じが!」
昼休み、賑わう食堂で少し離れた席にいる女子達が僕の話題できゃっきゃと騒ぐ。
【未完】

お題【もっと知りたい】

3/7/2024, 1:45:32 PM

カリッ

月白色の金平糖は、ほのかに日本酒の味がした。また食べたくなって、手に持っていた巾着からもうひと粒取り出し、口に含む。舌の上で転がすと、ひんやりとした心地よい感触がする。やがて、すーっと消えていき、程よい甘さが残った。
【未完】

3/4/2024, 8:36:59 AM

3月のはじめ。窓の外にはまだ雪がちらちらと降っていて、ときより雲間から出る陽の光に反射してきらめいている。その景色に見惚れていると、なんだか急に懐かしい気持ちに駆られた。確か、あの日もこんな景色だったような気がする。遠い昔へと思いを馳せていると、だんだんと眠気が襲いかかってきて、、、抗うことができず、冷たい畳の上に横になった。

甘い香りが鼻をくすぐり目を開けると、薄紅色の景色が広がっていた。何千何万もの桃の花が咲き乱れていたのだ。さっきの甘い香りはどうやらこれらしい。ときどき吹く風にのって、花びらが舞い落ちる。桃の花はほとんど匂いを感じないと聞くが、香りを強く感じるのはあまりにもたくさん咲いているからだろうか。
【未完】

3/1/2024, 2:31:28 PM

君は私に笑いかけてくれる。
嘘偽りのない、太陽のようにあたたかな笑顔で。
私はそれが嬉しくてたまらなかった。
君の笑顔が大好きだ。
それを見るだけで私は幸せだった。
これ以上はもう何も望まないと、
そう思っていた。
そう思っていた、のに――――

君と過ごした時間や思い出が増えるにつれて、どんどん物足りなくなってきた。もっと私に笑いかけて、もっと私のことだけを見て、私のことだけを考えて。
心ががんじがらめになる。どんどん黒く染まっていく。こんなはずじゃなかったのに。深く深く、沈んでいく。欲望がみるみる溢れてくる。こんな自分は嫌だ。いつか君をめちゃくちゃにしてしまうかもしれない。このままじゃだめだ。変わらなきゃ。だめだ。だめだ、だめだ。理性が私を必死に引き留めようとする。欲望が私に甘く囁く。心が、壊れていく。支配されていく。
ごめんね、もう私の心は潤わない。



お題【欲望】
題名【緋色の渇き】

3/1/2024, 11:37:38 AM

【未完】
お気に入りの白いワンピースを着て、リボンのついた麦わら帽子をかぶる。そして、鏡の前でくるりと1回転してみる。ワンピースがふわりと揺れ、私の心もまたふわりと浮く。口紅を塗り、はちりと瞬きすると、玄関の扉を開ける。途端、涼しい風が吹き込み、陽の光が差し込んできた。

Next