星乃威月

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7/17/2025, 9:42:49 AM

『今週は、多忙だったからな……
 たまには、ご褒美として、奮発もいいかな』


外に出れば、暖かな風が肌を擦る

街を歩めば、ザワザワと聞こえてくる音が、なんだか心地良い

祝日の賑わいの中、昼間の喫茶店は、様々な客層で大にぎわいだ

おもむろに店内へ

◇─◇─◇

コーヒーの温かな香りが鼻を掠め、ウツラウツラと目が霞む

順番が来て、目当ての品を注文した


「お持ち帰りですか?」

「いえ、店内で」

「空いてるお席へ、どーぞ」


店員の優しい心遣いは、注文を終えたばかりで緊張した心を、ホッと和らげてくれる

案内され、誘導されるがままに進む

どこもかしこも、人で混雑していた

本当に席は空いているのだろうか?

◇─◇─◇


「こちらへ、どーぞ」


やっと空いてる席を見つけた

こんなに混雑している中、親切に誘導してくれる店員には、感謝の気持ちでいっぱいになる


「有難う」

「いえいえ、どういたしまして」


その一言に、安心感が広がる

まるで、暖かな毛布に包まれたような心地よさを感じられた

店員は、ニコッと微笑み返す

この瞬間、心がほっこりした


「あなたの心優しさに、胸を打たれました
 本当に有難う」


感謝を述べると、店員は再びニコッと微笑みを返した


「いえいえ
 では、ごゆっくり」


店員はペコリと頭を下げると、忙しそうに去っていった

◇─◇─◇

通された席は、個室になっていた

ゆっくりと席に近づく

腰を据え、おもむろに商品を口にした

今日はホワイトモカ

香ばしくほろ苦い味わいに、この引き立つ甘さが、疲れた体に染み渡る


「はぁ~」


この瞬間が、なんとも堪らない


お気に入りのホワイトモカを片手に、窓から写る山々の景色を堪能する

青々とした山々が、光を受けてキラキラと輝き、その奥には静かな湖が広がってる様子が目に映る

薄雲を背にして静かに佇み、光が当たって色とりどりに輝いていた

この忙しい日常の中で、こうした瞬間がどれだけ重要か……


今日は晴天

午後もひときわ暑くなりそうだ

蝉の声が微かに聞こえ、夏の訪れを懐かしいメロディのように響いている

座席の温もりが、まるで夢の中へと誘われるかのようだ


『あぁ、これが、夢見心地という物か
 徐々に身体が軽くなり、心地よい風が頬を撫で、まるで空に浮いてるかのような感覚に、心が満たされてゆく
 この瞬間が、永遠に続けばいいのに……』


◇─◇─◇

周りの喧騒が徐々に遠ざかり、静寂が次第に包み込む

現実世界が薄れてきて、まるで夢の中にいるかような感覚が広がった

暫しの間、夢の中に誘われた

夢の世界には、まるで自分だけの時空のように、時が静かに流れてく感覚が漂っている

ゆっくりと時が流れるかのように、心がスッと解放されていった

◇─◇─◇

次の週末を思い描くと、心が踊り、嬉しさが込み上げてきて、体中が幸せに満たされる

その時、胸が高鳴り、顔に自然と笑みがこぼれた


『今度は、家族を連れて来よう
 ここから見える青々とした山々の眺めの良さと、香ばしい香りのするコーヒーの旨さに、きっと、嬉しがるはず!
 きっと、大喜びするぞ!
 その笑顔を思い浮かべるだけで、既にワクワクが止まらない!
 想像するだけで、次の週末が、まるで夢のように待ち遠しいな……』




ー真昼の夢ー

7/15/2025, 12:09:54 PM

「ここ、覚えてますか?
 君と歩いた細道
 この先に、何があるのかも……」


突然現れた少年は、不気味な笑みを浮かべながら、飄々と道を先導する


「ここへ来たのは、初めてな気が……
 考えても、思い付きません……」


腕を組み、首をかしげながら考え込み歩くが、思い当たる景色は思い出せなかった

それでも少年は、浮かべた笑みを崩さない
とても嬉しそうに、俺の行く先を先導するのだ


徐々に真っ黒なトンネルが現れた
時は夕暮れ、そろそろ日が落ちても可笑しくはない時間


「そろそろ帰らないと、家族に心配される
 だから……」


と、帰ろうとする俺の手を少年は引き留め、トンネルの中へと誘った



「まぁまぁ、冗談はさておいて、ここにお座り下さいよ」


トンネルを抜けると、そこには一本の切り株が、ひっそりと佇んでいる
言われるがまま、俺はそこに座った


「見てくださいよ
 この景色、この風景、この光景を!」


目線の先の丘の下
そこには、大量の黄緑の光が、右往左往、縦横無尽に飛び交っていた

俺は、目を見開いて驚いた


「これって‼」


少年は『引っ掛かったか?』とでも思える苦笑で、笑って見せた


「フ、フ、フ、フッ
 やっと、思い出せましたか?
 そうです、ホタルです!
 夏の風物詩の、あのホタルですよ‼」

「だから、場所を思い出せなかったのか……」


やっと思い出した

夏の夜、真っ暗闇の森の中
まだ幼い頃、一人で虫取に夢中になってた俺は、迷子になって暗闇の中をさ迷い歩いていた

そんな時に、泣きじゃくってた俺を、少年は引き留め、慰めてくれた



「大丈夫ですか?
 お怪我は、ありませんか?
 心細いのなら、私と来て下さいませんか?」


今と変わらぬ口調で、少年は俺の手を引いて、ここへ連れて来てくれたのだ



「覚えてる!覚えてるとも‼
 俺が泣きじゃくってた時に、初めてホタルを見せてくれた!
 あの時の君か⁉」


俺は嬉しくなり、満面の笑みを浮かべ、少年に抱きつき、嬉しくて嬉しくて、泣きじゃくった
もう、会えないと思っていた少年と、今、こうして再会できたのだから


「本当に有難う!
 こうして、再びホタルを見せてくれたこと
 君に出会えたこと!
 俺は、一生忘れない‼」



その後、知ったことだが……
森の精霊だと思い込んでいた少年は、ここの敷地に住む社の後継者だと知った
時折見回っては、不備がないか?と、確認し歩いていたらしい……
そこへ、たまたま俺の姿を見かけたからと、声をかけたと言うのだ
なんとも情けない話である

だが、恐ろしい思い出から、良い思い出に変えることが出来たのだから、今となっては良い話



「また、会えるといいな
 今度は、俺が誘いたい!」


と、満面の笑みで言い残して




ー二人だけの。ー

7/14/2025, 12:18:20 PM

炎天の下、蝉がけたたましく鳴く

打ち寄せる波が、なんだか荒々しい


突然の雷が、ゴロゴロと鳴り出し
空は真っ暗な闇に包まれ
ヒヤッとした涼しい風が吹いたと思えば
突然のスコールが
バケツをひっくり返したように降り注ぐ


土砂降りの雨に打たれ
雨宿りできる場所を求めてさ迷い駆ける


行き先は?
まだ空いているか?


スコールに掻き消された先を
どうにか見抜いて駆け回る

天の怒りから逃れるように

◇─◇─◇

雨が止み
どす黒い空に、晴れ間がよみがえった

暖かな風が舞い込む


振り返れば
キラキラ輝く7色が

生還した我らに
『よくやった』と微笑みかける




ー夏ー

7/13/2025, 11:31:26 AM

広く澄み渡る太陽の下、ソヨソヨと光輝く月夜に紛れ
星は今も細々と輝いているのに
強く眩しい光に掻き消され、未だ見えずにいる


行き先を急ぐ行き交う人々に掻き消され
人に紛れて自身を見失ったように
移り変わりゆく景色に掻き消され
安らぎを求める心が掻き消されてゆくように
生きたいと願う命の光は、失われつつある


夢は、どこなんだ?
生きる希望は、今も存在しているのか?
分からない、分からないけど、自分は確かに存在してる
今も、ここに




ー隠された真実ー

7/13/2025, 6:37:08 AM

こんな真夏に風鈴を飾ったって

風が吹かない、靡かない

音もしなけりゃ、クルクルと紙が回るだけ



あと少し!あと少しで、鳴りそうなのに!



風鈴の音とは裏腹に、クルクルと回る紙切れ

今年の夏も、暑くなりそうだな……

ジージージーッと、セミの鳴き声だけが聞こえていた




ー風鈴の音ー

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