俺は、とある場所に出た
無限に広がる地平線
見渡す限りの天と地の狭間
『ここは、どこなんだ?』
思いの言葉が、どこまでも反響する
答える人は、誰もいない
天と地の狭間で、たった1人
さっきまで、病院のベッドで寝たきりで
来る日も来る日も、同じ天井ばかりを見続けていたのに……
体が軽い
鉛のように重かった体が、ここへ来てから、重みを感じないんだ
『もしかして、天国か?』
夜も朝もない、ただただ続く地平線
地に足をつけてるのか、天に足がついてるのか……
それさえも、分からなくなっていた
見渡す限りの地平線
俺は、どうしたというんだ?
ー心だけ、逃避行ー
思い描く、未知の世界
大海原を突き進み
気高い山を駆け抜けて
目指すは、理想の大自然
神秘な洞窟、突き進み
キラキラ輝く、金銀財宝
悪者倒して、勇者復活!
これで、この世も世界平和!
ー冒険ー
うるさい、うるさい、うるさい‼
どんなに叫んでも、周りは騒がしくて
黙りもしない
静かにもならない
耳の中は、騒音まみれ
うるさい、うるさい、うるさい‼
誰か、静めてー‼
ー届いて.....ー
あの日、俺は、1人の命を失った
真っ暗な先
かなり遠く儚い夢を追いかけ、走り続けてた
制止する彼女の声を振り切り
ただ前だけを見つめることに、心を捧げていた
◇─◇─◇
いつしか、彼女は崩れ落ちてしまった
「あなたの命と私、どっちが大事なのよ⁉」
叫び声が、心の奥に突き刺さる
「俺は……夢を諦めたくない……走り続けたい
ただ、前だけを見つめていたい……
よそ見してる暇なんて……ないんだ……」
「あんたのバカ‼
このままだと、死んじゃうんだよ?
分かってるの……⁉」
「分かりたくもない……
このまま、消えてなくなるなんて……
認めてたまるか‼」
「ツヨシッ‼」
涙を浮かべた彼女の姿を背に、俺は走り去った
闇の中を、ただひたすら前に向かって
その行為が
やがて大きな間違いだったとは気付かずに……
◇─◇─◇
「カンナーッ‼ カンナッ! 目を覚ませっ‼」
俺は、彼女の名を叫び続けた
しかし、返事はない
さっきまで、笑い合ってたのに……
辺りは血の海
『何が、何が起きたんだ……
さっき隣で話してたのに……!』
見上げると、ビルの上を走り去る人影が映る
「アイツかっ‼」
────────────────────────
「あなたの心臓は、胸に爆弾を抱えているようなもの
走ったり、激しい運動は、避けるように
決意が固まりましたら、早急にご連絡下さいね」
────────────────────────
医者から言われた言葉が脳裏に浮かんできた
「あんな言葉、聞いててたまるか‼」
俺は闇に紛れ、ビルの間を駆け抜けた
満月の夜、月明かりの下
街灯も届かない暗闇を、果てしなく駆け抜ける
彼女の思いを、願いを、これからの人生を……
犯人を逃がすわけにはいかないから
ーあの日の景色ー
もしも翼があったなら
迷わず飛んで行けたのに
もしも願いが叶うなら
世界平和を願ったのに
もしも天才的な頭脳があったなら
人のため世のため力を尽くせたのに
もしも病気が世界から消えたなら
人は人を愛せたのかな
もしも、もしも、もしも……
考えてもきりがない
叶えられる事なんて
微塵も見当たらないのだから
ー願い事ー