星乃威月

Open App

あの日、俺は、1人の命を失った


真っ暗な先

かなり遠く儚い夢を追いかけ、走り続けてた


制止する彼女の声を振り切り

ただ前だけを見つめることに、心を捧げていた


◇─◇─◇


いつしか、彼女は崩れ落ちてしまった


「あなたの命と私、どっちが大事なのよ⁉」


叫び声が、心の奥に突き刺さる


「俺は……夢を諦めたくない……走り続けたい

 ただ、前だけを見つめていたい……

 よそ見してる暇なんて……ないんだ……」


「あんたのバカ‼

 このままだと、死んじゃうんだよ?

 分かってるの……⁉」


「分かりたくもない……

 このまま、消えてなくなるなんて……

 認めてたまるか‼」


「ツヨシッ‼」


涙を浮かべた彼女の姿を背に、俺は走り去った

闇の中を、ただひたすら前に向かって


その行為が

やがて大きな間違いだったとは気付かずに……


◇─◇─◇


「カンナーッ‼ カンナッ! 目を覚ませっ‼」


俺は、彼女の名を叫び続けた

しかし、返事はない

さっきまで、笑い合ってたのに……


辺りは血の海


『何が、何が起きたんだ……

 さっき隣で話してたのに……!』


見上げると、ビルの上を走り去る人影が映る


「アイツかっ‼」


────────────────────────

「あなたの心臓は、胸に爆弾を抱えているようなもの

 走ったり、激しい運動は、避けるように

 決意が固まりましたら、早急にご連絡下さいね」

────────────────────────


医者から言われた言葉が脳裏に浮かんできた


「あんな言葉、聞いててたまるか‼」


俺は闇に紛れ、ビルの間を駆け抜けた


満月の夜、月明かりの下

街灯も届かない暗闇を、果てしなく駆け抜ける


彼女の思いを、願いを、これからの人生を……

犯人を逃がすわけにはいかないから



ーあの日の景色ー

7/8/2025, 11:18:52 AM