茉莉花

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7/26/2025, 7:49:06 AM

「おはよう」
「おはようご、ざ……」

挨拶が途切れる。聞き慣れた声に振り向いた僕の目に映ったのはいつも通りの彼女、の、肘(ひじ)。
肘、である。
特別な部位ではない。夏場は多くの人がその部分を外気に晒すだろう。だが、この人の肘は出会ってこのかた見たことがなかったのだ。だって、この人はいつも決まって長袖を─────

「え、半袖?」

最高気温38度の日でも長袖で登校するこの人が?

「なんだ、そんなに珍しいか?」

当の本人はけろっとのたまう。

「いや、だってずっと長袖着てたじゃないですか…僕てっきり何かこだわりがあるのかと」
「はは、そんなのもないさ。君の方こそ今日の天気予報を見ていないのか?最高気温40度だそうだぞ、流石の私も半袖でなければ倒れてしまうよ」
「はぁ、そうですか……」

僕の中で「頑なに半袖を着ない人」から「40度に達する日でないと半袖を着ない人」に認識が改められた。
まぁ、あまり変わったようには思えないが。

「それよりさっきの君の顔、傑作だったぞ。あんな顔初めて見たなぁ、カメラを構えていなかったのを痛烈に後悔するよ」
「んなタイミングよく構えてるカメラあります!?って、そんなことはどうでもいいんですよ!僕の顔って!?どんな顔してたんですか一体!」
「教えないよーだ」
「ちょっ!待ってくださいー!」

6/30/2025, 9:07:36 AM

『……君の瞳は、綺麗だな』
『青が、光で揺らめいて…まるで海みたいに綺麗だ』

嘘つき。
黒くて、暗くて、重くて、海なんて、全然綺麗じゃない。
苦しい。冷たい。痛い。
海も、貴方も、嘘つき。
あぁ、でも。

(私の瞳も、とっくに綺麗じゃなくなってたのかもなぁ……)

6/20/2025, 10:59:39 AM

好き、嫌い、好き、嫌い……

心の中で呟きながら花弁をむしっていく。
最後に残ったのは……『好き』。
まただ。これで3回連続。いっそ運命的である。
「嫌いだと思ってたんだけどなぁ……」
どこまで行っても私は、あの“天才”のことが嫌いになれないらしい。たとえどんなに妬んでいても、羨んでいても。
まだ花はある。私はそれをひとつ手折って、また花占いを始めた。
他でもない、自分自身の心を占う花占いを。

6/18/2025, 10:47:32 AM

運命の糸が私じゃない人に繋がっていたら、どうすればいいんだろう?
あの人の赤い糸をちょん切って、私のもちょん切って、結びつけてしまえばいいのだろうか。
でも、それだといつか解けてしまいそうだなぁ、なんて考えながら、うーんと伸びをする。
「なんだ、もう集中が切れたのか?」
「ちがいまーすちゃんとやってまーす」
気の抜けた返事をしながら、忙しなく動く相手の左手をちらと見遣る。
きっとそこの糸は私に繋がっていないのだろう。
(…上等だよ)
なら奪ってしまえばいい。運命なんかに頼らずとも。
「私、頑張りますね」
ぽつりと呟くと、彼女は困ったように笑って「まずは手を動かせ」と言った。

6/17/2025, 10:46:44 AM

目の前に、最愛の人が座っていた。あの頃となに一つ変わらぬ姿で。
瞬間、これは夢だなと自覚する。
もう何度目か分からない夢。どこかの庭園で、あの人と向かい合わせに座っている夢。
彼女は微笑んだまま何も言わない。
「お久しぶりです。……また貴女に逢えて、とても嬉しい」
瞬きひとつしない彼女に、私は語り出す。
それが届くことなどないと解っていたとしても。

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