茉莉花

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「おはよう」
「おはようご、ざ……」

挨拶が途切れる。聞き慣れた声に振り向いた僕の目に映ったのはいつも通りの彼女、の、肘(ひじ)。
肘、である。
特別な部位ではない。夏場は多くの人がその部分を外気に晒すだろう。だが、この人の肘は出会ってこのかた見たことがなかったのだ。だって、この人はいつも決まって長袖を─────

「え、半袖?」

最高気温38度の日でも長袖で登校するこの人が?

「なんだ、そんなに珍しいか?」

当の本人はけろっとのたまう。

「いや、だってずっと長袖着てたじゃないですか…僕てっきり何かこだわりがあるのかと」
「はは、そんなのもないさ。君の方こそ今日の天気予報を見ていないのか?最高気温40度だそうだぞ、流石の私も半袖でなければ倒れてしまうよ」
「はぁ、そうですか……」

僕の中で「頑なに半袖を着ない人」から「40度に達する日でないと半袖を着ない人」に認識が改められた。
まぁ、あまり変わったようには思えないが。

「それよりさっきの君の顔、傑作だったぞ。あんな顔初めて見たなぁ、カメラを構えていなかったのを痛烈に後悔するよ」
「んなタイミングよく構えてるカメラあります!?って、そんなことはどうでもいいんですよ!僕の顔って!?どんな顔してたんですか一体!」
「教えないよーだ」
「ちょっ!待ってくださいー!」

7/26/2025, 7:49:06 AM