こどもの頃に読んだ本
とびらのむこうの
しらない世界
のらりくらり、やり過ごした年月に
ほんとうに書きたい物がなにか、見
うしなってしまったらしい
ふるえるほど、魔法に満ちた物語、
そんなものを今年は書きたい
#今年の抱負
ひねくれた子どもでしたから。
この言葉は、嫌いでした。
「よいお年を」
なんて気取った響きでしょう。
年末にはみんな、この言葉を言わないといけないのです。
いつものように「バイバイ」や「さよなら」で別れようとした自分は途端に、子どもっぽい、ものを知らない、みじめな無礼者に変わるのです。
だからって、周囲に合わせるのも嫌でした。
薄っぺらいのです。
あたかも「あなたのしあわせを願っています」という顔で手を振りながら、そのじつ、気づかいのできる自分に酔っている気分になるのです。
人間の心は有限です。
本気でやさしくできるのは、自分の輪で囲った内側だけです。
輪の外側の人々にばらまけるのは、無責任な言葉だけです。
ひねくれた子どもでしたから。
ひねくれた子どもの周囲には、薄っぺらい人間しかいなかったのです。
今は、少しわかった気がします。
言葉は、呪文なのです。
相手ではなく、自分のために言うのです。
あちらの言葉に、どれほどの真実があっても、なくても。わたしが「必要だ」と思うなら、こちらの言葉には意味があるのです。
おなじだけの熱量が返ってくることを期待したり、おなじだけの熱量を返さねばと気負ったり、ややこしく考える必要はないのです。
わたしの心を、明るくしたいから。
わたしとあなたをつなぐ見えない橋を、きれいに掃き清めて、まっさらな気持ちで来年のあなたに会いたいから。
だから、この言葉を言うのです。
「よいお年を」
#良いお年を
ふり返ってみる
登ってきた道を
安心したくて
みじかい足だけど
きっと進んだはずだから
どんくさい自分でも
去年の今よりは
山の頂は日々、ずんずん高くなっていく
あとから登ってきた背中にも
とっくに追い越されて ひとりっきり
たった、これっぽっち。
進んだと言えるのか
なんの意味があるのか
うずくまってしまいたくなる
#1年間を振り返る
#クリスマスの過ごし方
クリスマスは、マーケットで鯉を買うのが伝統です。
大きいのを丸ごと、生きたまま買ってくるのです。
バスタブに水を張って、鯉を放します。ぴちぴち元気に泳いでいます。
四歳になる弟が寄ってきて、興味津々でバスタブを覗きこみます。キッチンから、こっそりパンをくすねてきたようです。パンくずにパクパク食いつく鯉を、キラキラした目で見つめています。
うちのバスタブを鯉が泳ぐようになって一週間。
朝、ツリーの下でプレゼントを開けていると、バスルームで弟の悲鳴がしました。
「ママ!いないよ!ぼくのニックが、いない!!」
母がキッチンから顔を出して、何を言ってるのと笑いました。
「あなたの鯉なら、昨日みんなで食べたでしょう」
……みたいな話を、教科書で読んだ記憶がある。
鯉を泳がせるのは泥抜きのためらしい。ドイツの話と見せかけてリトアニア系家族の話だった気もする。手元にないので定かではない。「クリスマス」と聞くと思い出す、ほんのりトラウマ話。
#プレゼント
今朝、シロはとびきり早く目を覚ましました。
カレンダーには、今日の日付に、大きく丸がついています。
『パーティー、となり町』
となり町は、シロの村よりずっと大きい町です。
冬になると大きな広場のまんなかに、立派なモミの木を立てます。赤い木の実や金色の松ぼっくりでモミの木を飾りつけするのは、町の住人たちの特権です。けれど、モミの木のまわりでご馳走を食べて歌をうたうパーティーには、町の外からもお客さんが来ていいことになっています。
シロははじめての参加です。去年は引っ越してきたばかりで、広場にちらかった三角帽子や紙テープが、とてもうらやましかったのを覚えています。
マフラーをしっかり巻いて、シロは家を出ました。
ちょうど、おとなりの家から、クロが出てきたところでした。
クロは村でいちばんの、シロの仲良しです。
「クロも、来ればいいのに」
「ぜったい、やだ」
フン、とクロが鼻を鳴らしました。
クロはにぎやかな場所が苦手です。顔をしかめて、シロのコートのポケットを、うさんくさそうに見ています。
シロのポケットからは、銀色のリボンがはみ出しています。
「プレゼント交換をするんだよ。パーティーの最後に、みんなで」
シロがえらんだプレゼントは、落ち葉のしおりです。今年の秋、森を一日中歩きまわって、いちばんきれいな落ち葉でつくりました。ラッピング袋の銀のリボンもシロが結びました。リボンの端っこをとめているドングリのシールも、シロがはりました。
「ふうん」とクロは興味なさそうに答えて、さっさと森の方へ歩きだしてしまいました。肩にスケート靴をひっかけていますから、湖にいくのでしょう。
シロもクロに手をふって、別の方向へ歩きだしました。
足元が、フワフワしていました。
ポケットからはみ出したリボンが、シロの鼻歌にあわせて跳ねています。
心もヒョコヒョコはねています。
喜んでもらえると、いいなあ。
ポケットの上から、プレゼントをポンポン、たたきます。
まっ赤な、夕焼けのなか。
地面にのびた影を踏みながら、シロはとぼとぼ歩いていました。
家の前までくると、だれかがシロを呼びました。
顔をあげると、となりの家の前に、クロが立っていました。
シロはあわてて、持っていた袋をポケットにつっこみました。
銀色のリボンのついた袋です。ドングリのシールがはってあります。
パーティーの最後のことです。
モミの木をかこんで輪になって、みんなと一緒に歌いながら、シロもプレゼント交換をしたのです。けれど、シロにまわってきたのは、シロのプレゼントでした。手違いがあったようでした。困ってまわりを見ましたが、みんな嬉しそうに自分のプレゼントを開けはじめていましたから、シロはなにも言い出せなくなってしまったのでした。
うつむいているシロと、シロのポケットから垂れている銀色のリボンを、クロは黙って見ていました。
とつぜんクロが、シロの手をつかみました。
シロを引っぱって、ずんずん、どこかへ歩いていきます。
シロたちの村のまんなかにも、やっぱり広場があります。
となり町ほど大きくありません。けれど、灯を入れたランタンをぶらさげて、焼きリンゴやホットワインの屋台がならんでいます。
クロは屋台の前で足をとめて、焼きリンゴをひとつ買いました。
銀紙にのったほかほかの焼きリンゴをシロの手に押しつけて、シロのポケットからプレゼントの袋を引っぱり出しました。
「……本、読まないでしょう」
「読まない」
クロは首をふって、ラッピング袋から出した落ち葉のしおりをランタンにかざしました。
「うちの壁、さみしいからさ。このオレンジ色、いいな。夕焼けとおなじ色」
一つの焼きリンゴを、二人でかじりかじり、帰りました。
つないだ手が、ぽかぽかしていました。