もち

Open App

#プレゼント
 
 
 今朝、シロはとびきり早く目を覚ましました。
 カレンダーには、今日の日付に、大きく丸がついています。
 
 『パーティー、となり町』
 
 となり町は、シロの村よりずっと大きい町です。
 冬になると大きな広場のまんなかに、立派なモミの木を立てます。赤い木の実や金色の松ぼっくりでモミの木を飾りつけするのは、町の住人たちの特権です。けれど、モミの木のまわりでご馳走を食べて歌をうたうパーティーには、町の外からもお客さんが来ていいことになっています。
 シロははじめての参加です。去年は引っ越してきたばかりで、広場にちらかった三角帽子や紙テープが、とてもうらやましかったのを覚えています。
 マフラーをしっかり巻いて、シロは家を出ました。
 ちょうど、おとなりの家から、クロが出てきたところでした。
 クロは村でいちばんの、シロの仲良しです。
 
「クロも、来ればいいのに」
「ぜったい、やだ」
 
 フン、とクロが鼻を鳴らしました。
 クロはにぎやかな場所が苦手です。顔をしかめて、シロのコートのポケットを、うさんくさそうに見ています。
 シロのポケットからは、銀色のリボンがはみ出しています。
 
「プレゼント交換をするんだよ。パーティーの最後に、みんなで」
 
 シロがえらんだプレゼントは、落ち葉のしおりです。今年の秋、森を一日中歩きまわって、いちばんきれいな落ち葉でつくりました。ラッピング袋の銀のリボンもシロが結びました。リボンの端っこをとめているドングリのシールも、シロがはりました。
 「ふうん」とクロは興味なさそうに答えて、さっさと森の方へ歩きだしてしまいました。肩にスケート靴をひっかけていますから、湖にいくのでしょう。
 シロもクロに手をふって、別の方向へ歩きだしました。
 足元が、フワフワしていました。
 ポケットからはみ出したリボンが、シロの鼻歌にあわせて跳ねています。
 心もヒョコヒョコはねています。
 喜んでもらえると、いいなあ。
 ポケットの上から、プレゼントをポンポン、たたきます。
 

 まっ赤な、夕焼けのなか。
 地面にのびた影を踏みながら、シロはとぼとぼ歩いていました。
 家の前までくると、だれかがシロを呼びました。
 顔をあげると、となりの家の前に、クロが立っていました。
 シロはあわてて、持っていた袋をポケットにつっこみました。
 銀色のリボンのついた袋です。ドングリのシールがはってあります。

 パーティーの最後のことです。
 モミの木をかこんで輪になって、みんなと一緒に歌いながら、シロもプレゼント交換をしたのです。けれど、シロにまわってきたのは、シロのプレゼントでした。手違いがあったようでした。困ってまわりを見ましたが、みんな嬉しそうに自分のプレゼントを開けはじめていましたから、シロはなにも言い出せなくなってしまったのでした。
 
 うつむいているシロと、シロのポケットから垂れている銀色のリボンを、クロは黙って見ていました。
 とつぜんクロが、シロの手をつかみました。
 シロを引っぱって、ずんずん、どこかへ歩いていきます。
 
 シロたちの村のまんなかにも、やっぱり広場があります。
 となり町ほど大きくありません。けれど、灯を入れたランタンをぶらさげて、焼きリンゴやホットワインの屋台がならんでいます。
 クロは屋台の前で足をとめて、焼きリンゴをひとつ買いました。
 銀紙にのったほかほかの焼きリンゴをシロの手に押しつけて、シロのポケットからプレゼントの袋を引っぱり出しました。
 
「……本、読まないでしょう」
「読まない」
 
 クロは首をふって、ラッピング袋から出した落ち葉のしおりをランタンにかざしました。
 
「うちの壁、さみしいからさ。このオレンジ色、いいな。夕焼けとおなじ色」
 
 一つの焼きリンゴを、二人でかじりかじり、帰りました。
 つないだ手が、ぽかぽかしていました。
 
 
 
 
 
 

12/23/2023, 4:31:18 PM