運命

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2/1/2026, 8:01:30 AM

帰れたのは僕だけだった
血だらけで隻腕になりながらも、家の扉にしがみついていた。後ろから雪を踏みながら近づいてくる。嫌でも分かった。でも、猟銃がない以上どうすることもできない。次の瞬間に起きたのは暖かい血飛沫だった。人間って本当に死ぬんだな。


「大丈夫か」
体を起こされて目を開けると熊の死体が転がっていた。意識が朦朧としていたせいで何が起きているのか分からなかった。徐々に痛みが戻ってくる。
「早く来れなくて申し訳なかった」
刀を持った男が言った。この熊はただの熊ではない。なぜ仕留められた。この村の全員が殺された。村の人たちは全員猟師だ。山で鍛えられた精鋭達なのにみんな殺された。一晩で今まで熊の痕跡もなかったのに腕の立つ猟師が5人殺された。帰ってこないのを不思議がった父が猟銃を構えた。父の銃声は家を出た時からそんなに時間がかからずに聞こえた。2回銃声の後は無かった。それでも次の悲鳴が聞こえた時は背筋が凍った。猟銃を取り急いで悲鳴を追いかける。威圧が凄まじい。遠くから軍隊が来ているかと思った。壁が吹き飛ばされた。大きな岩が割れている。

いる。そこにいる。

銃を構えた。熊の息遣いが聞こえる。人がバラバラになるような地獄の音が聞こえている。喉を潰されても叫んでいる。木が折られるような音、これは頭蓋骨が潰される音だ。およそ20メートルは離れているが、それでも匂ってくる。
突然静かになった。
冷や汗が止まらない。
家がこっちに走ってくるように見えた。真っ黒の赤い目をした巨体が。吹っ飛ばされて噛み砕かれて腕を捥がれて咆哮で鼓膜が破れた。気づけば家の扉の前に転がっていた。まだ足は使える。虫のように這って行った。

熊は死んでも僕も死ぬ。下を見ると内臓が無かった。引っ掻かれた時にもっていかれた。吐血しながら虚になった目で言った。
「ありがとう」


1/22/2026, 11:18:19 AM

今が2026年だったことを思い出した。
この時代なら一回分の帰る電力があるとふんだんだが、色々ミスをしてしまって帰れないだよな笑
まあ本当は帰れるが帰りたくないのが正直な思いだ。計算を単純換算すれば一軒家一カ月分有れば足りる計算だが、寄せてもらってる家には最小限の迷惑しかかけたくない。早く帰れと言わんばかりに、この家にはソーラーパネルがあり、充電は予想よりだいぶ早い一週間と言う結果が出た。
いざ帰ろうと思いマシンに乗ったが、家に帰っても親がガミガミ言うのが想像できたからやめた。ドラえもんみたいに好きな次元に帰れるわけではなく、出かけた次元にしか帰れないように出来ている。時空迷子になる事件が多発したからだ。書き置きは残してあるから大丈夫だろう。もし事故が起こってしまった時のために時空御結日緊急押ボタン式発信機、略して‘御結び’があるが、“大丈夫”だと信号を発信している。そして“いつでも帰れるから安心してください”とモールス式で送信している。
“もうそろそろ帰ってきなさい”と受信に‘もうちょっとだけ’と送信して寝るのが日課
 
“もうそろそろ帰ってきなさいよ”
「一回帰ろうか」
その気もないが一回応えるようにそう思って今日も受信機の電源を切った。

1/22/2026, 10:07:12 AM

「やっぱ割に合わないよな」
そう思いながら寒さの中で待機していた。ここは北端にある刑務所。どうせなら南米のあったかいところがいいといつも思っているが、やはり寒いだけある。罪の重さが違う。軽罪の罪人は居なくはないが冤罪が多い。囚人の多くは勘が別格。刑務所は動物園。見下されて怯える熊、どこにいるか分からない山猫、人間見下している狒々。そして自分が見下されていることに気づいていない人間。
何もない檻はいつも自分自身の本質が反射する。気が狂って手足を噛みちぎり、内臓が無造作が牢にこびりつく。
そして私はとりにいく。
日が寒さに押し込まれる。
闇が霧のように窓から入り込む。
囚人は凍える。
私たちは鎌を握る。
そしていつしかこう呼ばれるようになった。
‘死神’と

みんなも悪さはしないように。殺させるより、自殺するより、刈られる方がよほど痛い。痛いなんてもんじゃない
囚人は痛みで叫ぶ
叫ぶ勢いで魂が飛び出す
寒さで冷えた手は魂が逃げるのを許してはくれないよ

1/7/2026, 10:49:17 AM

去年はたくさん降った
今年はこれから
来年は大雪
次の次の次の次の次の次の年は1日で道路が凍りつき、1日で蝉が鳴き始めるだろうか

何かと言って人類は生きていくんだろうな

雪の無いお正月にそう思った

12/19/2025, 12:44:32 PM

夢を見ていた。三日月に座って釣りをしていた。何も釣るものはない。でもその状態がとても心地よかった。ずっとここが良かった。下には街が広がっていて、空には星々が灯りを放っていた。寝ているような夢を見ているような。布団に入っているように暖かく安心できる。まるで母親の腕の中で守られているような。
ここは何も焦ることがない。ただただ僕自身がここに居たいと思えるような空間そのままだった。何もかかるはずのない釣竿をしっかりと引く感触があった。それも結構な大物。思いっきり引っ張ると、終わりが見えない千羽鶴が反動でうねりながら釣り上がった。
「すごい」
ただただそう思ってしまった。
釣り上げた反動で千羽鶴から数十羽の鶴が散らばってしまった。集めようと手を伸ばすと鶴たちの方から僕の方へ近寄って来た。1羽が言った

「元気になってね」

もう1羽が言った

「良くなってね」と。

鶴たちは僕の周りを周回しながらそう言った。

「頑張って」

「また学校来いよ」

「学校楽しいよ」

「みんな待ってるよ」

「がんばれ。大丈夫。お母さんがついてるよ」
声の方を振り向くと、僕の左手を両手で握りしめている母の姿が見えた。母の頬から一筋の涙が見えた。僕の左手にその雫が落ちたときに、それに合わせるように周りの鶴たちが僕を囲った。全ての鶴が光を放ちながら僕に入り込んでくる。
 病室に飾られている千羽鶴が爆ぜると同じタイミングで、病床の僕が目を覚ました。
「おはよ」
僕がそういうと母は握りしめていた僕の左手を離して顔を涙で濡らしながらずっと抱きしめてくれた。何も言わずに一心不乱に。
“おかえり”
1羽だけ残っていた鶴がそう言ったような気がした。



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