運命

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帰れたのは僕だけだった
血だらけで隻腕になりながらも、家の扉にしがみついていた。後ろから雪を踏みながら近づいてくる。嫌でも分かった。でも、猟銃がない以上どうすることもできない。次の瞬間に起きたのは暖かい血飛沫だった。人間って本当に死ぬんだな。


「大丈夫か」
体を起こされて目を開けると熊の死体が転がっていた。意識が朦朧としていたせいで何が起きているのか分からなかった。徐々に痛みが戻ってくる。
「早く来れなくて申し訳なかった」
刀を持った男が言った。この熊はただの熊ではない。なぜ仕留められた。この村の全員が殺された。村の人たちは全員猟師だ。山で鍛えられた精鋭達なのにみんな殺された。一晩で今まで熊の痕跡もなかったのに腕の立つ猟師が5人殺された。帰ってこないのを不思議がった父が猟銃を構えた。父の銃声は家を出た時からそんなに時間がかからずに聞こえた。2回銃声の後は無かった。それでも次の悲鳴が聞こえた時は背筋が凍った。猟銃を取り急いで悲鳴を追いかける。威圧が凄まじい。遠くから軍隊が来ているかと思った。壁が吹き飛ばされた。大きな岩が割れている。

いる。そこにいる。

銃を構えた。熊の息遣いが聞こえる。人がバラバラになるような地獄の音が聞こえている。喉を潰されても叫んでいる。木が折られるような音、これは頭蓋骨が潰される音だ。およそ20メートルは離れているが、それでも匂ってくる。
突然静かになった。
冷や汗が止まらない。
家がこっちに走ってくるように見えた。真っ黒の赤い目をした巨体が。吹っ飛ばされて噛み砕かれて腕を捥がれて咆哮で鼓膜が破れた。気づけば家の扉の前に転がっていた。まだ足は使える。虫のように這って行った。

熊は死んでも僕も死ぬ。下を見ると内臓が無かった。引っ掻かれた時にもっていかれた。吐血しながら虚になった目で言った。
「ありがとう」


2/1/2026, 8:01:30 AM