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9/10/2023, 1:37:41 PM

眼の前にこちらを微笑む友人が映る。けど、その顔は張り付いたままで、黒い額縁に入れられていた。重苦しい雰囲気が漂う中、僧侶の読経の声と線香の香りに包まれて通夜が営まれている。少ない参列者の中にはすすり泣く人もいた。

俺は何故か涙が出なかった。いつも笑って話していて、不幸なことなんて聞いたこともないあいつが、自ら首を吊っていたなんて...。信じられなくて実感も湧かなかった。食べた飯も味がしなくて、テレビの音も砂嵐みたいで何も分からなくて、授業の内容も覚えていない。なんだか心も脳みそもスカスカになったみたいだ。

焼香の番が回ってきた。あいつの周りに花や果物が囲まれていて、こことは違う世界に行ったのかと気付かされる。香をつまんで炉に焚べる。熱された香は、やがて煙を出し新たな匂いを生む。だが、渇いた心には何も生まれなかった。

手を合わせて、ようやく絞りきった言葉を友人に聞いた。「お前、なんで死んだんだよ」

9/10/2023, 9:49:25 AM

世界には同じ顔の人間が3人いるらしい。
じゃあ、同じ顔の人間が顔合わせをしたとして、同じ考え、言動、癖、声、体質は同じなのだろうか。

そんなことは考えられないだろう。もし、本当に何もかも同じ人間がいるとするのなら、それは奇跡と言える。



P.S

前回の投稿で♡が100突破しました。ありがとうございます^^

9/9/2023, 2:36:05 AM

カーテンから射し込む光で目が覚めた。

目の前には愛しい人が眠っている。手で顔を覆うように寝ていて見えにくいけど、安らかな彼の寝顔が、たまらなく可愛い。

もっと近くで見たくて、手をどかして、彼が私を抱きしめるような体勢にした。寝顔と、寝息と、温もりと、匂いと、鼓動が、一度に全部感じられて心地がいい。

ずっとこのままでいたくて、彼の胸に顔をうずめて目を閉じた。とても温かくて、鼓動がより鮮明に聞こえた。彼と私の匂いが混じりあって、表現しがたいやわらかい気分に包まれながら、意識を深く沈ませた。

9/8/2023, 10:13:49 AM

お茶碗いっぱいにご飯をよそい、真ん中を凹ませて、そこに卵を割入れる。その上に鰹節をひとつかみと醤油をひと回し入れる。

これが僕の最高の朝ご飯。卵かけご飯〜鰹節を添えて〜だ。卵とご飯の組み合わせは去ることながら、その上に鰹節の旨味がプラスされるのだから腹がならないわけがない。

それも出来上がってすぐ食べるのではない。ご飯の熱で踊る鰹節を眺めるのが、また至福のひとときなのだ。乾いた鰹節が、熱と湯気と程よい湿り気で身体を不規則にうねらせている。これを見ずに口に入れることなんて、食の快楽を知らないのと同義だ。今まで食に興味も無かった僕が言うんだから間違いない。

あぁ、鰹節の勢いが大人しくなってきた。そろそろ食べ始めるとしようか。

9/7/2023, 3:22:18 PM

-開演5分前-

舞台は完成した。後は役者が各々持ち場に向かうだけ。
私は開演から舞台に立つから、定位置であるカウンターの椅子に座る。

設定は、とある喫茶店。主役である店主やその常連客の日常を中心とした、笑いあり涙ありの物語だ。常連客は学生やおじいさん、サラリーマンやカップル等いる。一見、変わり映えのない役柄だが、それぞれ不満や悩みを抱えており、それを店主達と解決させるという内容だ。

私の役は、近くの大学に通う二年生。将来のことに漠然と不安を感じながらも、遊びに夢中になり始めた普通の大学生。喫茶店には開店から夕方まで入り浸るくらい、雰囲気が性に合う...という設定だ。


-開演直前-

開演のベルと共にアナウンスが流れる。いよいよだ。舞台が暗くなる中、頭をカウンターに伏せた。視線の先には袖で待機している役者や裏方が見える。と、店主役の先輩と目が合い、何か口パクで伝えた。暗くてはっきりと分からなかったが、あの先輩のことだろう。「結衣ちゃん、ガチで寝るんじゃないぞ(笑)」と言ったに違いない。『結衣』は私の役名だ。私は、その言葉に返事するように微笑みながら目を瞑った。

再度、ベルが鳴る。幕が上がり、舞台が灯りを灯す。
開演だ。

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