1分程しかいることのできない世界に降り立った。
視界はやや青みがかっていて澄んでいる。空気が漏れる音しか聞こえず、身体は地面に着いているのに、重力に逆らうかのように少し浮かんでいた。
岩と砂ばかりだが、上から射し込む光が、この世界の退屈さを紛らわせてくれる。暖かく、うねって色んな形に変わるのも、ずっと見ていられる。
あぁ、もうすぐもといた世界に戻らなくては...。私は思いっきり地面を蹴って、煌めく光に手を伸ばした。
あるきっかけで喜びを生むことが出来る
あるきっかけで悲しみを生むことが出来る
そのきっかけはどれも些細なこと
だから大袈裟に考えなくてもいいんだよ
この世界には敵ばかりしかいないと思ってた。
身体でも心でも散々傷つけられて、まるで玩具のように扱われた。
でも帰り道、名前も知らない人から「頑張って」って言われたんだ。不思議と心が響いて暖かい光が生まれた気がして世界が淡く輝きはじめた。
時に砂嵐が混ざるけど、手元の光だけは見失わない。少しでも歩き続けたら、より光が輝く気がするから。
ふとスマホを弄ってたら、画面の上からバナーが出てきた。彼氏からのLINEだ。
『話したいことがあるんだけど、時間ある?』
しばらくバナーが消えるまでぼうっと眺めた。正直、どう返信すればいいのか、すぐに既読をつけたくもないくらい気が重い。彼と大喧嘩して1週間経つ。きっかけはほんの些細なこと。それが今まで蓄積した不満がお互いに爆発して沢山酷い言葉で傷つけあってしまった。終いには「あんたなんか消えちまえ!」って怒鳴ってた。
数日経って冷静になれたけど、どんな顔を向けて謝ればいいのか、プライドが邪魔をしてズルズルと今日まで連絡も出来ずにいた。だから、話したいことは別れ話なのだろう。今まで沢山迷惑を掛けてるから、愛想を尽かされてもおかしくないくらいだ。別れたくないけど、そんな都合よく事態が良くなるわけないのは承知だ。
バナーをタップしてLINEのトーク画面が映る。文字を入力している時間が、いつもより長く感じる。どう返信しようか悩む必要なんてないのに悩んで、ようやく文ができた。私は送信ボタンを押す。
『いいよ。通話で話さない?』
シュポンッと鳴った瞬間に既読がついた。「あっ」、気づいた時には着信画面に切り替わっていた。待っていたんだ。身体の強ばりが和らいだ気がして、躊躇わず応答ボタンをスライドさせた。
みんなは僕を完璧だって言うみたい。勉強もできて運動神経も良い。それに、イケメンで人当たりがいい。先生や先輩、後輩にまで好かれている。こんなパーフェクトな人間いるのか、と言われるくらいだ。
だが、僕はそうは思わない。寧ろ、僕自身は短所の方が多いと思っている。勉強も運動も小さい頃から努力してきたから、賞賛されるのは嬉しい。でも実際は、数学は3より上に上がらないし、持久走のタイムは平均よりもかなり下だ。人付き合いも、相手の気持ちを理解出来ずに傷つけてしまう言い方をしてしまう時もあるらしいから、人当たりがいいと言われるのはどうかとも思う。
こんなこと言っていると、周りから偏屈だと思われそうだけど、みんなは僕にはない魅力がいっぱいあるのに、それを魅せないのは勿体ないんじゃないか?完璧な人なんてこの世界にいる訳じゃないんだから。
もし、僕が完璧な人間だったら、面白味もないし興味を無くすと思うな。