眼の前にこちらを微笑む友人が映る。けど、その顔は張り付いたままで、黒い額縁に入れられていた。重苦しい雰囲気が漂う中、僧侶の読経の声と線香の香りに包まれて通夜が営まれている。少ない参列者の中にはすすり泣く人もいた。
俺は何故か涙が出なかった。いつも笑って話していて、不幸なことなんて聞いたこともないあいつが、自ら首を吊っていたなんて...。信じられなくて実感も湧かなかった。食べた飯も味がしなくて、テレビの音も砂嵐みたいで何も分からなくて、授業の内容も覚えていない。なんだか心も脳みそもスカスカになったみたいだ。
焼香の番が回ってきた。あいつの周りに花や果物が囲まれていて、こことは違う世界に行ったのかと気付かされる。香をつまんで炉に焚べる。熱された香は、やがて煙を出し新たな匂いを生む。だが、渇いた心には何も生まれなかった。
手を合わせて、ようやく絞りきった言葉を友人に聞いた。「お前、なんで死んだんだよ」
9/10/2023, 1:37:41 PM