-開演5分前-
舞台は完成した。後は役者が各々持ち場に向かうだけ。
私は開演から舞台に立つから、定位置であるカウンターの椅子に座る。
設定は、とある喫茶店。主役である店主やその常連客の日常を中心とした、笑いあり涙ありの物語だ。常連客は学生やおじいさん、サラリーマンやカップル等いる。一見、変わり映えのない役柄だが、それぞれ不満や悩みを抱えており、それを店主達と解決させるという内容だ。
私の役は、近くの大学に通う二年生。将来のことに漠然と不安を感じながらも、遊びに夢中になり始めた普通の大学生。喫茶店には開店から夕方まで入り浸るくらい、雰囲気が性に合う...という設定だ。
-開演直前-
開演のベルと共にアナウンスが流れる。いよいよだ。舞台が暗くなる中、頭をカウンターに伏せた。視線の先には袖で待機している役者や裏方が見える。と、店主役の先輩と目が合い、何か口パクで伝えた。暗くてはっきりと分からなかったが、あの先輩のことだろう。「結衣ちゃん、ガチで寝るんじゃないぞ(笑)」と言ったに違いない。『結衣』は私の役名だ。私は、その言葉に返事するように微笑みながら目を瞑った。
再度、ベルが鳴る。幕が上がり、舞台が灯りを灯す。
開演だ。
9/7/2023, 3:22:18 PM