サブリミナルレモン

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10/2/2025, 1:33:56 PM

「遠い足音」

西日が差し込む放課後の教室。
そろそろ帰ろうかと身支度をしていると

――「それ、好きなの?」

僕の鞄についたキーホルダーを指さして
君が笑いかけてくる。
いつも大勢の人に囲まれている人気者の君と
初めて交わした二人きりの会話だった。

かすかに遠い足音だけが響く
君と僕以外、誰もいない教室。

夕日が君の笑顔をいっそう輝かしている。

この瞬間を、僕はきっと一生忘れないだろう。

9/29/2025, 1:38:25 PM

「モノクロ」

毎週木曜の5限は美術の時間だ。

__「隣の人とペアになってお互いをデッサン
   してください。」

今日の課題は隣の人を描くことらしい。
昔から美術は好きだったが、高校に入ってからは
この授業の時間がもっと好きになった。
美術室での席順は名前順のため、席替えが頻繁に
行われる自分の教室と違って、君がずっと隣にいる
からかもしれない。

じゃあよろしく、とお互い何となく会釈をして
デッサン開始。鉛筆でモノクロの君を描いていく。

ふと、目が合った。
逸らすのが何となくもったいない気がして、
そのまま見つめていると君の頬が少し赤くなった。

__「そんなに見られると緊張するよ」

いつもは余裕があってかっこいい君が、
照れくさそうに視線を外す。

画用紙に浮かび上がるモノクロの君の姿。
なのに描いている絵が色付いて見える。
あぁ、毎日が木曜日だったらいいのに。

9/27/2025, 1:15:59 PM

「涙の理由」

美しいと思った。
大学のキャンパスのベンチで、静かに涙をこぼす君を
見て不謹慎ではあるが心を奪われた。
声をかければこの美しい情景が壊れてしまう気がした。
だから自販機で買った缶コーヒーをそっと隣に置き
立ち去った。

あの時、なぜ泣いていたのだろう。

――「ねぇ、聞いてる?」
三十年前の初恋に浸っていた僕は、妻の声で現実に
引き戻された。
どうやら娘が婚約者を連れてくるらしい。けれど、妻はその相手をあまり気に入っていないようだ。

――「じゃあ聞くけど、僕とはどうして結婚したの?」
――「昔ね、何も聞かずにコーヒーをくれたことが
   あったでしょ? あれが沁みたの」

あれは気を利かせたわけじゃない。
美しいものを壊したくない、そんな僕の私欲にすぎなかった。そのことは、妻には内緒にしておこう。

9/25/2025, 12:22:46 PM

「パラレルワールド」

よくゲームに出てくる「分岐点」。
セーブデータを使って、一度目とは違う選択をして
展開を見比べる。あれはワクワクする楽しい。

でも、人生はそうはいかない。
分岐の見比べはできないし、やり直しもできない。

あの時「うん」って言っていたらどうなっただろう。
君の誘いに乗っていたら
今の自分はもっと自分自身に満足していただろうか。

自分の幸せは自分で決めたいのに
「周りと比べた自分」でしか判断ができない。
そんな時こう考える。

ーあの時違う選択をしていた世界線はきっと
 今よりもっと最悪で、もっとしんどくて、
 場合によっては隕石衝突で破滅している
 かもしれないー

だからもし分岐点に戻れたとしても同じ選択をする。

そんな「破滅のパラレルワールド」の想像が
今の自分を少し肯定してくれる。





9/23/2025, 1:21:25 PM

「僕と一緒に」

信号が青になるまでの間、
隣にいる君と同じ景色を共有している空気感が
とても好きだ。

進んでいた歩みを一緒に止めて
再び一緒に歩き出すという工程も含めて
信号待ちの時間が好きなのかもしれない。

僕と一緒に歳を重ねて
何気ない日常を一緒に作り上げて欲しい。

他にわがままを言わないから
急に逝ってしまったりしないで欲しい。

いろんな表情をする君をまだずっと見ていたい。

そんな君の年齢は10歳で、人間で言うと74歳。
もう少し、もう少しだけ時間を頂戴。
僕と一緒に過ごす時間を
もう少しだけ頑張ってくれないだろうか。

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