嫌いは言えるけど、好きは分からない。
っていった巴ちゃん(17)。
自分の嫌いなことはよく口にするけど、好きなもの言わない人って人間としてなんか薄くない?と私が口にした時の返事だった。
部活の先輩が毎度毎度、飽きることなく愚痴ばっか話すものだから、私もちょっと愚痴を吐きたくなった、それだけだった。巴ちゃんが、なんでこのタイミングでそれを言ったのかが分からなかったけど、なんか申し訳なくなって、気まずい雰囲気になったのは今でも覚えている。
じゃあね。
っていった昨日、自殺する前の巴ちゃん(22)。
巴ちゃんは、最後まで自分の好きが分からなかったのかな。嫌いばっかり見えてしまって、世界が敵のように見えたのかもしれない。
私は、あなたの好きにはなれなかった?
生きる理由になれなかったかな?
私達、分かりあえてなかったのかもしれないね。
それでも、そんな巴ちゃんのこと、私は大好きだよ。
またね。
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『玉江 巴』
「私達、絆でつながってる?みたいな」
言って自分で恥ずかしくなったのかそっぽを向く君。
でも、耳が真っ赤で何も隠せてないのがかわいい。
つなぐ手から伝わる君の体温。
河川敷。
目の前に広がる夕焼け。
馬鹿みたいだなあ。甘い妄想に浸って。
ピピピピピ……ピピピ…
目覚ましを止める。
あのとき言えなかった続きを、今でも思い出す。
『追悼』
平穏な日々だった。
会社では残業続きだったが、信頼できる仲間達と共に夜を過ごし、休日には家でゆっくりと自分の時間を過ごす。
この日々が、ずっと続くと思っていた。
そんな日々が突如として崩れた。
ああ、明日の夕飯は何にしよう。
久しぶりに洋食にしてみようか。
カサッ
………
カサカサッ
もう、やめて……
ゴキブリ……
金木犀の香りがした。
振り返ると、髪の綺麗な女性がコートを翻して歩いていて、なんだか私は、恋に落ちたみたいだった。
私は金木犀が好きだ。
だけど、自然の中ではこんなにも可愛らしい甘さを持つのに、百貨店で香る金木犀はなんとも媚びるような甘さで嫌いだ。
常々、人工は自然に勝てないなと思う。
あの髪の綺麗な女性は、金木犀を家に飾っているのかな。
それとも庭に植えているのだろうか。
もしかすると、金木犀の妖精だったのかな。
なんて、いつもの妄想だ。
「私も、金木犀好きよ。あなたみたいで。」
あの彼女の面影をいつも追っている。
小さい命って?
お年寄りや赤子など、社会的に価値がない人達のこと?
人間を除いた、知能の低い動物や虫、植物のこと?
赤子や、生まれたての哺乳類動物のことを見て、小さい命や小さき命と呼んでいる場面を見たことがある。
ネットで、あるいは現実で。
じゃあ、成人した人達の命は、対比で大きい命とでも呼ぶの?
なら命とは、体や精神の大きさに比例するものってこと?
そもそも、〝命〟に大きいや小さいなどの形容詞を当てはめていいのかなあ。
私は、命はどんな生命にも平等に与えられた等しい価値のものであって、サイズ感的な形容詞を当てはめるには向いていないと思う。
だって、赤子を小さき命と呼ぶなら、大人は大きい命?
小さいと呼ぶなら大きいも無くては駄目だけど、大きい命っていうのは何に当てはめるのが正解なんだろう。
それが分からない以上、人類史の中に小さい命なんて言葉は存在させてはいけないのでは?